弁護士伝授手習鑑

第221号 弁護士伝授手習鑑

 

私は、歌舞伎がかなり好きなんですね。荒唐無稽な話でも、役者さんがカッコいいと、もっともらしく見えるから不思議です。歌舞伎の主人公には、悪人も多いんですが、これがまた魅力的なんです。お嬢吉三なんて、大金を強奪したうえ、被害者を川に叩き落すなんて無茶苦茶なことをしておいて、濡れ手に粟で大金が入ったことを喜んで、「こいつは春から縁起が良いわえ。」なんて見えを切ります。「強盗殺人じゃないか!」と思う一方、ここまで悪い奴だと、かえってスカッとしちゃいます。(おいおい。。。)その一方、歌舞伎の中には、どうしても好きになれない話もあるのです。

菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅ てならいかがみ)は、とても人気のある出し物です。政争に負けた、学問の神様 菅原道真の話です。弟子の一人は、道真の子どもを連れて身を隠し、村で寺子屋を開いて、近くの子供達に教えています。そのことを知った道真の敵は、子供を殺してくるように、追手を差し向けます。ところがこの追手は、かつて道真から恩を受けていたことから悩むんですね。一方、道真の子供をかくまっている弟子は、道真の子を助けるために、自分が教えている寺子屋の子供を、身代わりにしようと考えます。(こんなひどい先生、居て良いのかよ!) ところが、生徒である村の子供達はいかにもやぼったいので、これでは身代わりとして差し出しても、敵を騙せないと考えます。ここで、「いずれを見ても山家育ち。」なんて、有名だけど、ふざけたセリフが出てくるんです。そこに、洗練された子供がやってきたので、これ幸いと殺して、道真の子供の身代わりにします。この殺された子供というのが、そうなることを予想して、追手が送り出した自分の子供だったというわけです。

自分の子供が死んだことを知った追手が、家に帰って妻に言うセリフが、これまた有名ですが、本当に酷い。「女房喜べ。息子がお役に立ったぞ!」 私の感覚では、「いずれを見ても鬼畜の所業」としか思えないんです。しかし、忠義のために自分の子供を犠牲にするという芝居は、非常に観客受けするんですね。このモチーフの熊谷陣屋(くまがいじんや)なんかも、何度も何度も上演されている当たり狂言です。どうも、子供は親の所有物だから、自由にしていいんだという意識が、一般人の中にもあるように思えるのです。

数年前に裁判員裁判が始まったことで、法律専門家と一般の人との、刑の重さについての意識の違いが明確になりました。性犯罪など、裁判員になってから、5割増しで刑が重くなっている気がします。その一方、親が子供を殺すような事件の場合、裁判員の元でもそれほど刑が重くなっていないように感じるのです。

もともと日本の法律では、子供が親を殺した場合は非常に重く罰せられた一方、親が子供を殺した場合には、本当に軽い刑だったんですね。少し前までは、無理心中で子供を殺した親の事件その他、多くの裁判で、当然のように執行猶予が付いてました。

6年前の目黒の事件は、子供にゴミ袋をかぶせて窒息死させたんですが、これでも親には執行猶予がついています。大阪で起こった、二人の幼児を閉じ込めて餓死させた事件では、親は懲役30年とされ、非常に重い刑だと報道されていました。でもこれ、他人の子供に同じことしていたら、「当然、死刑、最低でも無期懲役だろう!」とマスコミも世論も言ったはずです。

「女房喜べ。息子は生きているぞ。」 こんな当然の言葉が名セリフと言われるように、国民の意識が変わっていけば良いなと、歌舞伎ファンとして思うのでした。

弁護士より一言

先日、外で落としたお菓子を、「3秒以内に拾えば大丈夫!」と言って、食べてしまったんですね。

見ていた息子が妻に、「ママ、パパが拾って食べちゃったよ? いいの ?」なんて聞きました。

すると妻が、平然と言ったのです。「パパは山家育ちだから大丈夫。」 失礼な! パパだって、洗練された都会の教養を身に着けているんだぞ、と言いたかったのですが、説得力がないので止めました。

親の気持ちとしては、息子は「山家育ち」で良いので、元気に育って欲しいものです。

(2018年5月16日発行 大山滋郎)

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