判例 -ベネッセ個人情報漏洩事件について-
判例 ベネッセ個人情報漏洩事件について
「最高裁判所平成29年10月23日判決」
第1 事案の概要
未成年者Aの保護者が、ベネッセ側に対し、Aの氏名、性別、生年月日、郵便番号、住所及び電話番号並びに保護者の氏名といった個人情報が外部に漏えいしたとして、損害賠償請求をした事案。
なお、漏えいに係る個人情報については、ベネッセのシステム開発、運用を行っていた会社の業務委託先の従業員であった者が、大量に持出し、複数の名簿業者に売却した。
第2 原審(大阪高等裁判所)の判断
1 結論
請求棄却
2 理由
本件漏えいによって、迷惑行為を受けているとか、財産的な損害を被ったなど、不快感や不安を超える損害を被ったことについての主張、立証がされていない。
第3 最高裁判所の判断
1 結論
破棄、差し戻し
2 理由
本件個人情報は,上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ(最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照),上記事実関係によれば,本件漏えいによって,上告人は,そのプライバシーを侵害されたといえる。
しかるに,原審は,上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく,不快感等を超える損害の発生についての主張,立証がされていないということのみから直ちに上告人の請求を棄却すべきものとしたものである。そうすると,原審の判断には,不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない。
第4 関連訴訟(東京地判平成30年6月2日)
上記最高裁判決後、東京地裁において、別の保護者らによる損害賠償請求事件の判決が出たが、同判決では、今回漏えいした氏名や住所、生年月日などの個人情報が、日常的に契約などの際に開示することが多い点を踏まえ、「自己が欲しない他者にはみだりに開示されたくない私的領域の情報という性格は低い」「何らかの実害が生じたことはうかがわれない」「抽象的な不安感に止まる」などとし、ベネッセがおわびの文書と500円相当の金券配布したことなどを考慮し、「慰謝料が発生する程の精神的苦痛があると認めることはできない」として、請求を棄却した。
第5 過去の裁判例
住所、氏名、電話番号等の個人情報漏えいに関し、過去の裁判例では1人あたり1万円の慰謝料と5000円の弁護士費用が認められた事例(京都付宇治事件(大阪高判平成13年12月25日判例集未登載))、1人あたり5000円の慰謝料と1000円の弁護士費用が認められた事例(Yahoo!BB事件(大阪地判平成18年5月19日判タ1230号227頁))がある。
(平成30年7月18日発行 文責:下田和宏)