愛と偶然の弁護士

第287号 愛と偶然の弁護士

「愛と偶然の戯れ」は、今から300年も前の戯曲ですが、いまだに上演されています。お金持ちのお嬢さんが、親の決めた男性とお見合いをすることになりますが、相手の男がどんな人か不安です。

そこで、ヒロインは自分の侍女と入れ替わって、相手を見極めようとする。ところが、男性の方も同じように、自分の従僕と入れ替わってやってきたという話です。ヒロインが侍女のふりをしてお見合いに臨んだのは、男性は信用できないからということです。よく見せようという相手には、いくらでも良い人のように振舞えるのです。いつ会っても気持ち良い態度の男性が、「家では、ものも言わず、笑いもせず、そうかといって叱りもしない」なんてことがよくあるというんですね。「叱りもしない」なんて男性、現代社会でも本当に居そうで、思わず笑ってしまいました。

 

そういえば、つい最近有名な経営者が、奥さんに暴力をふるって逮捕されたなんて報道がありました。「外で聖人 家庭で暴君」なんて言葉があるくらい、こういう事案は多いみたいです。そして、このことは、弁護士についても当てはまるのです。

例えば、人権派と言われているような弁護士の方が、「ブラック事務所」だなんて同業者に言われるようなこともよく聞きます。外では人間愛にあふれた人権派弁護士でも、事務所内では事務員さんたちに酷い扱いをする暴君弁護士なんです。飲食業などで「ブラック」と言われているお店は、お客様に対しては、良いものを、良いサービスで、安く出すという、最高の対応をしていたりするものです。法律事務所の場合も、似たようなことがあるんですね。これは大変問題ですから、やはり「ホワイト事務所」の弁護士を目指さないといけないと思います。

 

しかし、これはこれでそう簡単な話ではないのです。太宰治に有名な「家庭の幸福」という短編があります。そこで描かれている役所勤めの男性は、「細君にとっては模範的な亭主」で、「子供たちにとっても模範的なパパ」なんです。宝くじが当たると、一人で使おうなどと考えずに、家族のためにラジオを買うことにします。仕事をしながらも、ラジオが届いたときの、家族の喜ぶ顔を思い浮かべて、「早く帰宅の時間が来ればよい。平和な家庭の光を浴びたい。きょうの一日は、ばかに永い。」と思っていると、太宰先生は変に細かく描写します。そこで定時になる瞬間に、どうしても今日中に手続きをして欲しいという女性が来ます。

 

でも、この役人は、そんな頼みなど全く無視して、「また明日来て下さい」と言って、すぐに帰宅してしまいます。困っていたこの女性は、思い余って玉川上水で自殺をしてしまうなんて話です。太宰は、ここから「家庭の幸福は諸悪のもと」なんて名言を残しました。さすがに私も、太宰については、「玉川上水のことを考えるより、少しは家族孝行しろよ!」と言いたくなります。

 

その一方、「良い家庭を築いている人でも、社会人としてかなり問題がある」と感じることも事実なのです。弁護士の場合、少し前までは「殿様商売」ができたので、酷い顧客対応をしていた弁護士など沢山いました。

最近はずいぶん良くなってきていると思いますが、まだそういうところはありそうです。しかし、そういう弁護士が、事務所内では、若手弁護士や事務員さんに対して、とても良い人だったりするんですね。こうなりますと、「事務所の幸福は諸悪のもと」と、太宰先生に言われちゃいそうです。

 

「言うは易く 行うは難し」ですが、誰に対しても笑顔で、誠意を持って対応できる弁護士となりたいものです。

 

弁護士より一言

私も妻から、「ブスッとした顔をしないで笑ったほうが素敵だよ!」なんて注意されます。自分では、不機嫌そうな顔をしているつもりはないのですが、仕事のことを考えると、色々と心配が顔に出ちゃうんです。先日のバレンタインで、子供達からチョコにドラ焼き、固焼きせんべいと好物をたくさん貰いました。なぜかお小遣いもねだられましたけど。ううう。「諸悪のもと」にならないよう気を付けつつ、家庭の幸福を大切にしたいと改めて思ったのでした。

(2021年2月16日 大山滋郎)

 

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