誰も帰ってはいけない

第250号 誰も帰ってはいけない

先日、プッチーニのオペラ、トゥーランドットを見てきました。お姫様と結婚するには、3つの謎を解かないといけないんです。失敗すると殺されます。既に各国の20人以上の王子たちが死んでいます。そんな謎に、正体不明の王子が挑む話です。一つ目の謎は、「夜、寝るときに生まれて、朝になると無くなるもの」です。分かりますか? 答えは「希望」なんだそうです。この回答には、心から感心しました。私も思い当たることがあるんです。食べ過ぎた夜、ベッドで、「大丈夫。明日は何も食べないから!」なんて「希望」を持つんですが、翌朝になると何となく口寂しくて、柿ピーとか食べちゃうんです。(ダメ過ぎるやろ!) ちなみにこの謎を高校生の娘に出したら、答えは「眠気」だそうでした。うーん。。。 二問目の謎は、「赤くて燃えるが、炎ではないもの」です。答えは「血潮」なんですが、まあ、そんなものかなというのが正直な感想です。うちの娘の回答は、「赤唐辛子」でした。あ、アホか!と思う一方、確かにそうかもという気もしちゃいました。そして三問目ですが、「氷のように冷たく、炎のように熱いもの」という謎です。「分かった! アイスの天ぷらだ。」と思った方(そんな人居るんか!)外れです。答えは、「トゥーランドット姫」なんですね。というわけで、王子さまは3問とも正解するわけです。しかし考えてみますと、うちの娘の回答でも、間違いとは言えない気がします。そして、こういう問題は、法律の世界でもよく起こるんです。例えば請負契約で、依頼者は「血潮」を要求しているつもりでも、請負人の方は「赤唐辛子」を持ってくるなんてことは、本当によく起こります。どちらが、謎(あんまり言うと怒られますが、請負契約の対象など、弁護士にとっても謎なんです。)に対する正しい回答なのか、非常にもめます。最終的には裁判で争われることにもなるのです。トゥーランドットに話を戻しますと、負けたお姫様は往生際悪く、「結婚するのは嫌だ。」とゴネます。そこで王子は、自分の方から謎を出します。お姫様が夜明けまでにその謎を解くことが出来たら、自分の命を差し出すとまで言うんです。その謎は、「自分の名前を当ててみろ。」というものでした。(これを聞いて、思わず、「お前はジャギか!」と、わけの分からない突っ込みをいれたくなりました。) 

そこでお姫様は、国中にお触れを出します。「この王子の名前が分かるまで、誰も寝てはいけない。」という内容です。これを聞いて私は、「このお姫様、酷い人だな。」と、改めて憤慨したのです。正体不明の王子の名前なんて、99・9%の国民が、知ってるわけないじゃないですか! 何も知らない国民達が寝ないで頑張っても、何の役にも立たない。しかし考えてみますと、こういうの、日本の会社でよくあるんです。私も会社員生活が長かったんで、経験しています。例えば、「上司や先輩が仕事しているのに帰るなんてとんでもない!」という雰囲気が、少なくとも私が勤務していたころにはありました。確かに新人のうちは、慣れるということで、職場に居ること自体に意味はあります。しかし、何年も働いている社員が、先輩たちの仕事が終わるまで「誰も帰ってはいけない」というのは、かなりおかしなことです。うちの法律事務所は、会社側に立って、相当数の未払い残業代の事件を扱っています。従業員から残業代請求などが来ると、会社の経営者は、「残業時間中この人は何も仕事をしていなかった。他の従業員からも確認を取っている。そんな奴に何で残業代を支払うんだ!」と怒ります。
「もっともな怒りだな。」と思う一方、「誰も帰ってはいけない」という習慣に対して、経営者はもっと真剣に対応する必要があるのでは、と思うのです。

 

弁護士より一言

中学生の息子が、ネットから知識を得るたびに、問題を出してきます。先日の「謎」は、「職場で『うざいおっさん』と言われないためにはどうすれば良いのか?」というものでした。「お説教をしない!」と、自信もって答えたんですが、正解は違いました。
「一緒に飲食したならご馳走するか、少なくとも多く出す。」が正解だそうです。そこで私も安心して、「そんな下らないネット見てないで勉強しなさい。パパの若いころは。。。」と、お説教しておきました。

                                         (2019年8月1日 大山滋郎)

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