弁護士の初心

第285号 弁護士の初心

「初心忘るべからず」ってありますよね。能楽を大成させた世阿弥の言葉だそうです。一般的には、最初のころの瑞々しい感性や気持ちを忘れてはいけないという意味です。もっとも、劇作家の山崎正和先生によると、少し違う。始めたばかりの、何もできなかった未熟な時代の恥ずかしい自分を忘れるなという意味だというのです。どっちが正しいのか、私には分かりかねる一方、実践的にはほとんど同じようにも感じます。

 

私も、独立して法律事務所を始めたときには、随分恥ずかしい失敗をしてきました。そんな自分を思い出して、新人の失敗には寛容にならないといけません。さらに、独立したばかりでは、間違いがあってはいけないと思います、何度も何度も確認して仕事をしていたのを覚えています。いくら慣れてきても、そういう気持ちを忘れてはいけないですね。さらに言いますと、新人弁護士のころは、良くも悪くも「相場」が分からないのです。このような事件なら、この辺が落としどころの相場だな、というのが、弁護士を長くやっていると段々分かってきます。相手方弁護士とも、ツーカーの呼吸で、大体相場で終わらせようとするようになってきます。

 

しかし考えてみますと、弁護士はじめ法律家の「相場」が、世間の常識と合致している保証はどこにもないわけです。それなのに、法律に書かれていない「相場」で無理やり納得させられることを不満に感じる依頼者は相当数います。なまじ「相場」を知っていると、そこから外れた主張をするにも、どうしても真剣さが足りなくなるように思えます。

 

それに対して「初心」者の弁護士は、その辺の相場なんか知りませんから、依頼者のために本気で戦います。結果的には、うまくいかないケースが多いでしょう。しかし、たとえ結果はどうであれ、自分のために真剣に戦ってくれた弁護士を、高く評価する依頼者は沢山いると感じています。更に言うと、こういった相場を無視して本気で戦う弁護士が居るからこそ、新しい判例も生まれてくるのです。

 

「初心」について、私が感動したのは、セブンイレブンを作った、鈴木敏文の言葉です。コンビニなどのサービス業に入ってきた社員は、段々と仕事の大変さが分かってきます。そうなってくると、お店側に少々不手際があっても、「これこれこういう事情で、こうなったんだ。これはしょうがないな」と思ってしまうというんです。鈴木敏文先生は、入社したときに持っていた、客としての我儘な気持ちを、社員になっても忘れるなと、指摘したわけです。「我儘」なお客様に満足していただくことを、常に考えろという教えですね。これまた本当に大切な教えだと思いますが、その一方、あまりに我儘なお客様に対してどう対応するのかは、悩ましいところでもあります。

 

うちの事務所では、電話やメールでの無料法律相談をしていますが、中には何もかもを無料相談で聞こうという人も居ます。「ほ、本当にあとちょっとだから」から更に、「あと本当に一つだけ。そのくらい教えてくれてもいいじゃない!」なんて言います。「これ以上は有料相談でお願いします」と言ったところ、「最低な弁護士だな!」と、電話をガチャ切りされたこともありました。いくら何でも、我儘過ぎるだろう! 

 

今月から事務所に新人弁護士2名が加入しました。入所したての頃は、私のような先輩弁護士を凄い人だと思ってくれるのが普通です。時が経つにつれて、「意外と大したことないんだな」と分かってくるのです。是非とも、「先輩は凄い」と誤解?していた初心を忘れないで欲しいと思ったのでした。

 

弁護士より一言

お正月にローストビーフを大皿に盛って、家族皆で食べてたんです。次女が、「こういうのの食べ方最近やっとわかった。まず手元にたくさん確保してから、ゆっくり食べるのがいいよね」なんて言います。親として、「そんな食べ方は恥ずかしいよ」と教えてあげたところ、言い返されました。「パパが、凄い勢いで食べるからでしょ!」ほ、ホントですか? 娘にも、ゆっくり食べていた初心を忘れないで欲しいのです。                                              (2021年1月18日 大山滋郎)

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