孔明弁護士の指針

第288号 孔明弁護士の指針

弁護士の仕事をしていると、迷うことばかりです。不利な和解でもした方が良いのか、徹底的に争うべきなのか、2つの選択肢のどちらにするのか、なかなか決められない。こういうときには、決断のための指針が欲しくなります。「葉隠」なんて、有名です。選択に迷ったときには、辛い方、厳しい方を常に選べという教えです。「武士道とは死ぬことと見つけたり」という殺し文句と共に有名です。意識しないうちに安全策を選んでしまう、私みたいに度胸のない人間には、「保身を考えないで、死ぬ気で辛い道を選べ!」という指針は役に立ちそうです。

ただ、和解するか示談するか、依頼者に影響がある問題に、「葉隠」の指針だけで対応するのは困難ですね。死ぬのは依頼者ですから。。。

 

指針の話として、ドン・キホーテのエピソードがありました。従者のサンチョが、ある町の領主として赴任したときに、有罪なのか無罪なのか、難しい判断を迫られるエピソードです。いくら考えても、分からない。そこで、主君のドン・キホーテから言われた指針を思い出します。「どうしてよいのか迷ったら、慈悲深い方を選びなさい」というアドバイスです。そこで、許して無罪としたという話です。確かに良い話だと思いますが、「簡単に真犯人を無罪にされたらたまらない!」と、被害者の方には言われそうです。現代日本の刑事裁判でも、執行猶予が付くか付かないか、微妙な事件があります。そういうときに、裁判官が「慈悲の心」で、全員執行猶予にしてしまったとしたら、「本当にいいのかな?」という気持ちにもなりそうです。(私が弁護人のときには、慈悲の心で裁いて欲しいですけど。) やはり、もう少し具体的な場面に即した指針といえるものがあれば有難いと思うのです。

 

というわけで、私の好きな「三国志」のエピソードです。関羽が、魏と呉に挟まれた土地の領主になります。魏と呉の両方から攻められたら、持ちこたえられません。「両方から攻められたらどうするつもりか?」と孔明に聞かれて、関羽は「死んでも戦います」と回答するんです。それに対して孔明が、「人の上に立つものが、死ぬなどと軽々しく言うものではない」と窘めて、指針を授けます。「呉と連携し、魏と争う」というものです。とても具体的で明快な指針です。

しかし、これだけ明確な指針でも、現実の場面で守るのは難しい。呉の呂蒙や陸遜の挑発に我慢できずに戦となり、関羽は戦死してしまうわけです。孔明大先生のような凄い話ではないですけど、弁護士の場合も依頼者に指針を示すことはよくあります。

 

例えば労働事件の会社側は、なかなか勝てません。かなりの問題社員であっても、解雇はできませんし、遊んでいるように見える人でも、法定労働時間を超えて会社に居れば、残業代を支払わないといけないんですね。紛争になると、まずは従業員側の弁護士から、和解の話が出てきます。これを蹴って裁判になれば、さらに被害が拡大する場合がほとんどです。「納得できない気持ちは分かりますが、労働事件では、何としても和解した方が得です」なんて指針を会社側に出すのです。経営者の方も、頭では理解できているから、「そうするか」なんて受け入れてくれます。

ところが、そういうときに相手方の弁護士から、さらに強気な書面がでて来るんですね。そうなると、こちらも怒りが再燃してきて、「死んでも戦います」と、関羽みたいなことを言い出しちゃう。

気持ちが分かるだけにとても辛い。思わず相手の弁護士に対して、「あんたは、呂蒙か陸遜か!」と、わけの分からないことを、つぶやいてしまうのです。

 

弁護士より一言

ニュースレターの中で使う話など、ほとんど記憶で書いてます。後から、私の勘違いで、そんな話ではなかったなんてことがよくあるんです。それに、字の間違いも結構あります。昨年のニュースレターで、孫子を取り上げたんですが、間違って「孫氏」と書いてました。ニュースレターを読んだ娘に、「孫氏ってソフトバンクの人?」って聞かれ、「アホか!」と思った自分が恥ずかしい。「間違っているのは自分だ」とまず考えることを、今後の指針としていきます。

                                                                                                                            (2021年3月1日 大山滋郎)

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