言い訳弁護士

第303号 言い訳弁護士

小言幸兵衛という落語があります。大家さんをしている幸兵衛さんは、小言が大好きなんですね。家を借りに来た人にも小言を言って追い返します。「子供がいると部屋を貸して貰えない」と心配して、「子供はいません!」なんて言おうものなら、「子は『子宝』というぐらいだ、そんな事を自慢する奴に店は貸せん」「女房が子供嫌いなら、オレがもっといいのを世話してやる! すっぱり別れて独り身になって引っ越してこい」なんて無茶苦茶を言うんです。そんなわけで、なかなか部屋が埋まらない。まあ、江戸から昭和にかけては、大家さんの力が強かったから、こんな感じでもやっていけたんでしょう。もっとも、現代でもこんな大家さんいます。

 

最近、賃借人の代理人として対応した大家さんは凄かった。最初からケンカ腰で、私にまで小言を言ってきます。さらには、「代理人の人品を見る必要があるので、当方の事務所まで来るように」なんて言われちゃいました。ううう。。。 

 

もっとも、小言が好きなのは弁護士も同じです。「何だってお金を払って、小言を言われないといけないんだ!」という、お客様の苦情を何回も聞いたことがあります。刑事裁判の弁護人が、法廷で被告人にお説教するなんて、本当によくあったのです。検察官や裁判官に言われるのはまだしも、味方のはずの弁護士からもボロクソに言われたら、たまらない気持ちになるのもよく分かります。

 

小言幸兵衛の家族は、「小言」に対抗して「言い訳」が上手くなったのではないか、ということで書かれた小説が、星新一の「いいわけ幸兵衛」です。この幸兵衛さんの「言い訳」は神業です。会社勤めしているのですが、毎日遅刻してきます。それでも、毎日素晴らしい言い訳をするので、全く問題になりません。幸兵衛さんは、言い訳の才能を見込まれて、潰れそうな会社の社長になります。社長だから、社内の人には言い訳する必要が無くなったことを残念に思いながら、やがて会社が倒産したときに、怒った債権者たちに言い訳することを楽しみにしているなんて話でした。ただ考えてみますと、言い訳幸兵衛は、問題が起きてから言い訳してます。

 

しかし、今の社会では、問題が起きる前から言い訳する必要があるのではと思い至ったのです。少し前に関西の駅で、駅員さんに「パスモ使えますか?」と質問したことがあります。駅員さんは暫く考えてから、「チャージされていれば使えます」と答えたんです。な、何なんだ、その回答は。ただ、これなんか、クレーマーに悩まされてきた駅員さんの、防御策なのかもしれません。これまでに、「パスモ使えます!」と答えたところ、チャージされていないパスモが使えないとクレームを付けてきた人がいたんでしょう。冗談のように思えますが、こういうクレーマー、本当にいます。

 

私が担当したのは、「車のナビに従って運転したら、崖から落ちたので弁償しろ」という人でした。落ちる前に気付けよ! こういう時代ですと、弁護士も言い訳が上手くなります。弁護士の出す法的な「意見書」なんて、言い訳が8割占めてます。「意見書の通りにしたら損害が生じた」などと言われないために、前提事実や検討した証拠の標目など、これでもかと列挙して、「意見」が妥当する範囲を明確にしていきます。

 

これは万が一のクレーム対策に必要な手間です。純粋に意見だけを出すなら、10分の1の手間と費用で対応可能なんです。今の時代、「小言弁護士」は論外でしょう。保身目的の「言い訳弁護士」も程々にしようと思う一方、お客様の為なら、幸兵衛さんに負けない「言い訳」の技を磨きたいと思うのです!

 

弁護士より一言

ニュースレター13年も続けてますので、子供たちも小さい頃から読んでいます。娘からは、「一言」は面白いけど、本文は何が良いのか分からないなんて言われてました。でも、最近になって、「パパのニュースレターの面白さが分かってきた!」と褒められました。「分かんないのは勉強が足りない!」なんて「小言」も、「みんなに分かるように書くのは難しい」なんて「言い訳」も、言わなくて良かったと思うのです。                                      (2021年10月18日 大山滋郎)

 

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