弁護士の審判
第306号 弁護士の審判
「審判」といえば、フランツ・カフカの長編小説ですね。第1次世界大戦前に書かれていますから、もう100年以上前の小説です。若い頃に読んだとき、内容はよく理解できなかったんですが、主人公の名前がヨーゼフ・Kだということだけ記憶に残りました。30歳のKさんが、一体何の罪を問われているのかさえ教えて貰えないまま、逮捕され、裁判を起こされます。ヨーゼフ・Kは色々と弁明したり、弁護士に依頼したりするんですが、最後に処刑されてしまいます。
今回、なぜヨーゼフ・Kを取り上げたかと言いますと、勘の良い人は気が付いたと思います。現代日本でのコムロ・Kさんです。この人もヨーゼフさんと同じく、30歳なんです。コムロ・Kさんに対する、「マスコミ裁判・ネット裁判」の不条理さが、ヨーゼフ・Kの裁判と似ているように思えたんです。コムロ・Kも、結局のところ、どんな罪を犯したのかよく分からないのに、マスコミ裁判にかけられます。「親の借金罪」とか「皇室との結婚 生意気罪」みたいな犯罪があるのではと、錯覚に陥りそうになるほど、多くの人から非難されてるんです。大体、皇室とはいえ、よその家の娘さんと結婚する人のことを、よくもまああんなに色々と言えるものだと感心してしまいます。
カフカの「審判」に戻りますと、ヨーゼフ・Kという人は、あまり人に好かれる人ではないようです。裁判の場で、自分がいかに正しいかを強調し、今回の裁判が陰謀に違いないなんて演説を、長々と始めます。これによって、傍聴している人の反感を買ってしまうのです。でも、これ今の日本の裁判でもよくある話なんです。少し前に、交通事故で死傷者を出した人が、「上級国民」だなんて非難された事件がありましたよね。ブレーキとアクセルを踏み間違えての犯行だとされています。ところがこの「上級国民」は、自分は正しいと主張して、「事故は自動車会社の責任だ!」みたいな話をしていました。事故自体に加え、こういう態度が多くの人の反発を買って、重い処分になったような気もします。コムロ・Kさんの場合も、長くて言い訳がましい説明文なんて出すから、ますます反発を買うことになったのは間違いないでしょう。
ところで、ヨーゼフ・Kさん、弁護士を付けてませんでした。そこで心配した叔父さんが、友人である弁護士を紹介してくれます。弁護士の立場からすると、こういう風に紹介でくるお客様は有難いんです。身元がしっかりしているので、安心して業務ができます。紹介客の事件しかやらないなんて弁護士、少し前までは日本にも相当数いました。その一方、紹介で来たお客さんが、とても困った人だなんてケースもあります。紹介者の手前、辞めたくても辞められない。ヨーゼフ・Kの場合、弁護士のところのお手伝いさんと関係をもったりと、やりたい放題です。こんなのと比べたら、日本のコムロ・Kさんなんか、とてもまともな人に思えます。(比較するなよ!)
更にヨーゼフ・Kは、裁判がちっとも進行しないとイライラして、弁護士に不満をぶつけます。こういうお客さん、うちの事務所でもいました。裁判の進行は、弁護士にはどうにもできないことですから、非難されても困ります。もっとも、カフカの「審判」の場合、裁判の進行は、現代日本での裁判と比べて凄く早いんです。ヨーゼフは30歳の誕生日に逮捕され、そこから判決を受け、処刑されたのが30歳最後の日です。1年で全て終わるスピード裁判です。日本の場合、死刑判決となりますと、最終的に判決が確定するのに数年はかかります。さらに、死刑執行されるまでに、数年以上かかるのです。オウム真理教事件のときに、あまりに裁判に時間がかかるから、「まずは処刑してから、それから裁判しろ!」なんて無茶苦茶をいう人までいました。何にしても、コムロ・Kさんの方は、ヨーゼフ・Kと違い、処刑されることもなく、無事に結婚できて良かったなと思うのでした。
弁護士より一言
小室圭さんの、借金問題等への説明文というのが、一時話題になりましたよね。あまりに長いので、私は読むのを諦めました。でも、やはり目を通したという娘から言われたんです。「パパ、自信を持って。小室さんの文章より、パパのニュースレターの方が断然面白いよ!」 褒めて貰えた嬉しさより、「何で比較しようと考えたんだよ!」と思ったのでした。
(2021年12月1日 大山 滋郎)