セールスマンの弁護士
第312号 セールスマンの弁護士
ダジャレのタイトルで済みません。「セールスマンの死」は、米国現代演劇の古典で、日本でも頻繁に上演されています。少し前に、風間杜夫・片平なぎさの舞台を観に行ったんですが、4月には段田安則・鈴木保奈美で上演されます。妻と2人で暮らす、63歳のセールスマンが主人公です。セールスマンの仕事に誇りを持っていた主人公が、売ることができなくなる中、精神的におかしくなっていく。妻は、そんな夫が自殺するのではと心配している。そこに、家を離れていた2人の息子が戻って来る。舞台の上で、現在と過去が交錯し、最後に主人公が自殺するまでの24時間を描いたドラマです。
本当に素晴らしい劇で、私なんか米国と日本で、これまで4回見に行ってます。そんな凄い劇ですけど、その一方、劇の中での「セールスマン」に対する扱いは、どうにも不当です。自殺した主人公の葬式に参列した隣人が、「セールスマンというのは、浮き草稼業で、売れなくなったらおしまいだ」みたいに主人公の仕事について総括します。おそらくこれが、作者の意見でもあるのでしょう。この隣人は経営者でした。
また、隣人の息子は、昔は主人公の息子の子分みたいだったのに、今では弁護士として活躍して、若くして米国最高裁で弁論するまでになっています。一応解説しておきますと、最高裁で弁論するというのは、本当に凄いことなんです。恥ずかしながら私なんか、まだ一度もしたことありません。考えてみますと、法律を勉強してきた人は、売り込みをすることに苦手意識を持っているようです。
以前、私が企業で法務を担当していたとき、法律関係の仕事を希望している人たちの面接をしたんです。何人かの応募者から、「将来、セールスをやれと言われることはないでしょうか?」なんて聞かれたものです。自分で法律事務所を始めると、新人弁護士の面接をするようになりました。面接の場で上手くアピールできない人は、「セールスマン」に対する偏見があるように感じてしまいます。「本当の自分」を見て貰えればいいのであり、「売り込み」みたいなことをするのは、恥ずかしいことだと思っていそうなんですね。
しかし、独立した弁護士としてやっていくには、「セールスマン」の能力は必要不可欠です。「法律事務所の経営者1人に対して、自分を売り込めない人が、様々な顧客に対して自分を売り込めるわけがないでしょう!」と、応募者に教えてあげます。それでも、売り込むことへの苦手意識は、なかなか無くならないように感じています。
もっとも、少し前までは、弁護士の数が少なかったので、「セールスマン」の能力が無くても、大して困らずに仕事の依頼が来ていたのが実情です。弁護士の数が増え、競争が厳しくなる中で、「法律一筋」みたいな弁護士が独立してやっていくのは難しくなってきました。そう言う中で、組織の中に入って、自分の得意分野で勝負できる「サラリーマンの弁護士」になる人が増えてきているのが、今の弁護士業界です。企業法務で活躍する弁護士は、凄い勢いで増えています。私も会社の法務部門に居たので、これは素晴らしいことだと思います。
実際、企業で扱う案件は、一般の弁護士事務所の事案に比べて、はるかにスケールが大きくて、やりがいのあるものが多いのです。しかし、「セールスマン」になるのが嫌だから「サラリーマン」になるというのなら残念な気もします。本当は弁護士の助けが必要なのに、気が付いていない人は沢山います。
そんな人達に、「こんなサポートができますよ!」と売り込める、「セールスマンの弁護士」になりたいものです。
弁護士より一言
因果関係は分かりませんが、コロナのワクチン後、髪と眉毛が抜けてしまいました。妻と娘からは、「眉毛が無いと人相が悪くなる」「抗がん剤を使っていると思われちゃう」とさんざん言われました。心配になって行った大学病院の先生からは、「大丈夫」という言葉と共に言われました。「若い娘さんなら、少々リスクはあっても、毛を生やす治療しますけど、あなたの場合は良いですよね」 わ、私だって、「セールスマンの弁護士」として、外見を大事にしたい。でも、「はい、もちろんです!」と答えていたのでした。。。 (2022年3月1日 大山滋郎)