弁護士の陰謀論
第357号 弁護士の陰謀論
コロナを巡っては、多くの陰謀論がネットに出ていました。コロナ初期のころは、「中国がウイルス兵器を作ろうとしていたものだ」なんていうのがありました。兵器にしてはしょぼいなと思う一方、ひょっとしたらなんて気にもさせる話です。さらには、コロナで老人が亡くなる率が高いことから、コロナは年寄りを殺すための陰謀だなんていう説もあったのです。「世界の実権は年寄りが握っている」という陰謀論との整合性はよく分かりません。その後、コロナワクチンが出て来ると、ワクチン陰謀説が盛んになります。ワクチンという毒を体内に入れた人は、3年以内にみんな死んでしまうそうです。コロナワクチンの目的は、人口削減なんですね。人口減少に苦しんでいる先進国で、誰が人口削減の陰謀を巡らしたのか、興味はあります。実は私、ワクチン接種直後に眉毛が抜けてしまったので、ワクチンにはかなり否定的な見解を持っています。でも、「陰謀論者」と言われると嫌なので、あまり人には話していなかったのです。実際問題として、身内が「ワクチン陰謀論者」になった場合、周りの人たちは困るでしょうね。心の中でこっそり思っている分には、特に害は生じません。しかし、それを大々的に話して、さらには他人に強要するようになると、とても迷惑です。
もっとも、陰謀論を唱える人の中にも、迷惑どころか本当に面白い人もいるんです。私が好きなのは、松本清張先生の、「日本の黒い霧」です。戦後の、米国による占領下で起こった数々の怪事件に関して、「いずれも占領軍(GHQ)の陰謀だ!」と決めつける話です。「ほ、本当ですか?」と疑わしく思う一方、清張先生は話が旨いですから、「ひょっとしたら。。。」なんて思わされてしまう。私もこういった「陰謀論」はとても好きでした! 私がストレートな陰謀論者よりも、更に「嫌だな」と思うのは、他人の陰謀論を強く批判しながら、自分自身は平気で陰謀論を口にする人達です。こういう人たちは、「政府の陰謀」みたいなことは大好きで、何かというと口にします。スパイ防止法案が出されたときなど、「日本が戦争するための陰謀だ!」なんて、それなりの立場の人達が本気で言っていました。何で政府が戦争をしたがるのか、理解に苦しみます。これを「陰謀論」と言わずして、何と言うのかと思うのですが、マスコミもそういう主張を大真面目で取り上げていました。「陰謀論」だと批判するどころか、一緒になってはしゃいでいたんですね。弁護士にも、訳の分からない陰謀論を主張する人は沢山います。裁判員裁判が始まったときに、「これは政府が徴兵制を進めるための陰謀だ!」と、大真面目で主張していた弁護士がいたものです。裁判員として強制的に国民を動員することが、後の徴兵制度への布石になるんだそうです。ワクチンにより人口を削減するというのに匹敵する陰謀論としか思えないんですが、特に批判されずに済んでいます。事程左様に日本では、政府のすることに対しては、どんな阿保らしい陰謀論でも、何となく通用してしまうようです。アベノミクスは、国民を貧しくすることを目的とした政策だったなんて、大真面目に「陰謀論」を話して、それが通用する社会は、やはりおかしい気がします。「陰謀論者」は、弁護士に相談に来る人にもいます。「アメリカ軍の、日本壊滅の陰謀に気が付いたので、軍に追われている」なんていう人が相談に来たこともありました。自衛隊機が上空を飛んでいると、「あれは自分を監視しているんだ」と主張します。「ほ、本当に済みません。そんな国家レベルの陰謀には、うちの事務所では対応は困難です」と謝罪して、相談料も免除して、帰ってもらいました。裁判に負けると、裁判官と相手方の間に、何かの陰謀があるのではといわれることもあります。私も、「これは勝てるだろう!」思う事件で負けた場合は、ついつい同調したくなります。わ、私も、「陰謀論者」にならないように、気を付けます。
弁護士より一言
娘が「出前館」という配送サービスでドーナツを頼んだんです。「玄関前に置いといてください」と指示を出していたのに、「電話しても出なかったので廃棄しました」と連絡が来ました。「配達員が盗んだ陰謀ではないか?」という勢いで、怒っていました。「でもそのおかげで、太らずに済んだんだから良かったじゃん」と話したら納得してくれたので、結果オーライでした。 (2024年1月16日 大山 滋郎)