弁護士のマネー・エイジ

第369号 弁護士のマネー・エイジ

「マネー・エイジ」は星新一の近未来SFです。小学生の女の子の目を通して、お金で全てが解決される世の中が描かれます。遊園地に行くはずだった父親は、お金儲けに夢中になっていて約束を守らない。そんな父親から罰金の金貨2枚貰うことで、主人公は納得します。いじめっ子に会うと、金貨1枚を渡して、お釣りを受け取ります。いじめ問題もお金で解決できるわけです。学校では、質問に答えられないと、先生が罰金を取られます。

一方、友達に勉強を教えてあげると、報奨金がもらえるのです。物語の最後で主人公は、お金で解決できない世の中だなんて、昔の人はどうやって生きていたんだろうと感慨にふけるのです。さすが星新一先生の未来はぶっ飛んでいます。私なんか、こういうお金で回る世の中も面白く感じます、しかし一般的には「お金」に対して嫌悪感を抱く人が多いように思います。世界史の授業で、宗教改革を勉強したことを思い出します。ローマ教皇が、免罪符を売り出すんですね。お金を出して「免罪符」を買えば、罪が許されるというものです。マネー・エイジの主人公なら大歓迎しそうな仕組みです。しかし、免罪符に怒ったルターが、ローマと決別して、プロテスタントが生まれたなんて習いました。私の考えでは、ルター先生そんなに怒らないで、温かい目で見てあげればよかったのにと思ってしまいます。神社のお賽銭だって、ある意味お金で「神頼み」を買っているようなものですが、「神社はけしからん」なんていう人、聞いたこともありません。というわけで、「マネー・エイジ」の世界での、法律や裁判について考察してみます。

まず、国民同士の紛争は、離婚や解雇の問題全てお金で解決されることになります。もっとも今の民法も、原則として紛争はお金で解決すると規定されています。紛争解決は、最終的には「賠償金」という形で終わるのです。裁判で、「金は要らないから、謝罪させろ!」なんて主張しても、まず認められないのです。また、離婚や解雇でも、一定のお金を払えば認められる方向に動いています。そう考えると、日本の法律は今でも十分「マネー・エイジ」みたいです。さらにお金万能の世界になると、刑事事件などすべてお金で解決するのでしょう。刑罰は全部罰金刑です。殺人罪の場合は、最低1億円からその人の総資産額までだなんて定めるんですね。これなら国庫も潤います。

さらに、被害者の遺族には罰金の半分渡すなんて制度にすれば、納得する遺族もいそうです。(う、うちの家族は違いますよ) これこれの罪の場合、百万円払えば逮捕されない、この罪の場合は1億円払えば保釈が認められるといった運用もできそうです。保釈と言えば、カルロス・ゴーンが保釈中に逃亡した事件がありました。しかし、マネー・エイジの世界なら、ゴーンの保釈金は百億円にしたはずです。これだけ預かっていたなら、たとえ逃げられても、それほど腹も立たなかったに違いない。考えてみますと、現代日本の刑法自体、かなり「お金」で左右されているように思えます。人に怪我をさせたとか、痴漢をしたといった場合、被害者に賠償金を支払えるかどうかで、刑罰が違ってきます。大金を支払って示談できた場合、そもそも起訴されずにそのまま事件が終わることなどよくあります。そう考えると、お金で罪が許されるんですから、「示談金」というのは「免罪符」みたいなものかもしれません。もともと日本の裁判所では、被害者側への賠償の有無を重視していました。悪質な強制わいせつ事件などでも、被害者に1千万円近く賠償して「免罪符」を入手すれば、執行猶予が付いたのが普通です。

ところが、「司法改革」で裁判員制度ができたら結果が違ってきました。多くの裁判員はこのようなお金による「免罪符」で罪が許されるというのは妥当でないと判断したのです。裁判員の考えが正しいのでしょうが、弁護士としては「ル、ルターさん止めてください」と思ったのでした。

 

弁護士より一言

中山道を歩いていると、昔ながらの旅館に泊まることがあります。予約にネットは使えないので、電話しないといけない。先日泊まった宿には、お客さんが7名いましたが、私以外は全員欧米人でした。自転車で中山道を走っているそうです。円安だから外国人旅行者が増えているのは事実でしょう。でも、お金の問題だけではなく、日本人として負けた気がしたのでした。                                                                                                          (2024年7月16日  文責:大山 滋郎)

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