シャイロックの弁護

第384号 シャイロックの弁護

シャイロックといえば、シェイクスピアの「ヴェニスの商人」に出てくる、ユダヤ人の高利貸です。恨みを持っているキリスト教徒にお金を貸すにあたり、約束通りに返済できないときには、胸の肉1ポンドをもらい受けるという契約をします。そして、本当に返済ができなくなるや、胸の肉1ポンドを求めてヴェニスの裁判所に訴訟を提起します。この借主を助けるために、裁判官に扮した女性がシャイロックを言い負かして、やっつけるという劇です。全体的に、ユダヤ人に対する差別に満ち溢れています。シェイクスピアの時代のキリスト教徒たちは、無邪気に楽しんでいたんでしょうが、今となっては大問題になりそうな内容です。そこで現代では、内容はそのまま同じでも、作る方も見る方も、劇全体を「ユダヤ人の悲劇」としてとらえることになっています。劇の中でシャイロックは主役であり、私が見たお芝居では猿之助や草彅剛が演じていました。それまでに散々迫害されてきたユダヤ人のシャイロックの苦しみや、絶好の機会をとらえてキリスト教徒に仕返ししてやろうという思いをうまく表現していたのです。

この劇の見どころは、なんといっても法廷の場面です。シャイロックは、契約を盾に「正義」を求めます。当時の常識では、相手はユダヤ人ですから、権力で押さえつければ解決しそうです。しかし当時のヴェニスは一大貿易都市です。いろいろな人達が活躍している。多民族国家のアメリカでは契約が大切なのと同じで、法による安定性がないと、国として成り立たない。契約が守られないとなると、多くの商人たちが寄り付かなくなるという問題があったそうです。

ちなみに、こんな契約が現代日本の裁判所で審議された場合は、解決はとても簡単です。胸の肉1ポンドをとるなんていうのは「公序良俗」に反するから無効ということで、直ぐに解決してしまうんです。しかし、ヴェニスの商人の芝居の中で、こんなに簡単に解決してしまったら面白くもなんともない。芝居を盛り上げるように色々なやり取りがなされます。裁判官は、まずはシャイロックに対し、情に訴えて説得しようとします。相手に対して慈悲の心を持つようになんて言うわけです。慈悲は義務じゃないだろうなどと反論するシャイロックに「慈悲は義務によって強制されるものではない。天から降ってきて大地をうるおす、恵みの雨のようなものなのだ」なんて有名なセリフが出てきます。現代日本でも、裁判官が情に訴えて和解を目指すことはよくあります。しかし、シャイロックは、こんな言葉には動かされない。

あくまでも、契約通りの「正義」を求めます。そこで裁判官は、契約書の文言通りに執行すると言い出します。それを聞いたシャイロックは喜びますが、裁判官の言葉には続きがあります。胸の肉1ポンドと契約書には書いてあるのだから、取ってよいのは「肉」だけであり、血は一滴も流してはいけない。1ポンドと書いてあるので、わずかでも多くても少なくてもいけないといわれます。この屁理屈?でシャイロックがやり込められるという劇です。これを見て、多くの人はスカッとしたのでしょうけど、法律家の間ではかなりの議論が起こったそうです。こんな理屈が通用するなら、通常の商取引なんてできなくなるというわけです。土地を借りた人が、靴底についた砂を一粒でも外部に持ち出したら契約違反となってしまいます。牛肉1キロ購入した人が、「買ったのは肉だから、血が一滴でも入っていたら契約違反」というのは確かにおかしい。私がシャイロック側の弁護士だったら、こんな風に弁護したいと思うのです。シャイロックの一番の失敗は、訴訟に弁護士を付けなかったことだと思うのでした。

 

弁護士より一言

息子から、「LGBTQの『Q』ってなんだっけ?」と質問されました。とっさに、「オバケに対する差別禁止だよ」と答えたのです。案の定白けたんですが、別に「おやじギャグ」だからというわけではなくて、単純に何を言っているのか、分からなかったそうです。オバQを知らないなんて、かなりショックを受けたのでした。降る雪や オバケは遠く なりにけり。。。                                                                                                         (2025年3月3日  文責:大山 滋郎)

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