弁護士の保険料
第423号 弁護士の保険料
万が一のリスクに備えるために、生命保険や火災保険といった多くの保険があります。
現代人にとって保険は必要不可欠な一方、多くの保険に入れば入るだけ保険料の支払いが大変になります。年金暮らしの人が、「生命保険の保険料が高くて、支払いが大変だ」と愚痴ったという笑い話がありました。どのようなリスクに備えるために、どれだけの保険料を支払うのか、しっかりと考える必要がありそうです。ニュースや政治の場で、「日本の食料自給率を上げるべきだ」という意見をよく見かけます。いったん問題が生じたときの保険として、食料自給率を考えることは、有事への備えとして、もっともなことだと思います。
その一方、こうした見解を聞くたびに違和感を覚えるのも事実です。なぜなら、有事に備えた高自給率という「保険」をかけるために、支払わなければならない「具体的な保険料」については、無視しているように思えるからです。本気で食料自給率を上げたいのなら、安価な海外産食料の輸入をストップし、国民が国産品だけを買う状況を作る必要があります。さらに言えば、1960年代の農業革命以降、現代の農業は実質的に「石油(化学肥料や農薬、農機具の燃料)」を食料に変換する仕組みで成り立っているはずです。輸入が途絶えたら石油も入ってこない。真の意味での食料自給率を高めるには、今の段階で石油に頼らない食料生産を、国内で進めていくしかないでしょう。その分、価格にも反映されますし、収穫量も不安定になります。それらの高額な「保険料」を国民が負担することを考えると、食料自給率100%なんてことは、軽々しく言えないと思うのです。保険料という考え方は、弁護士が契約書を作成・審査する場面でも考慮されています。弁護士に相談に来る人の多くは、問題が起きてからやってきます。すると弁護士は、過去に締結された契約書を確認して、「こういう不利な条項で契約したことが問題ですね」みたいなことを言うんです。しかし、契約交渉の場面で、自分に有利な条項に変えようとすれば、当然相手は反発してきます。交渉に長時間かかることは普通にあります。その条項を有利に変更してもらうために、取引価格が不利になることもあり得ます。
そう考えると、「長い交渉」「不利な価格」という「保険料」を支払って、万が一の不測の場面に備えたことになるわけです。契約書では有利な条項がいっぱい入っていても、その分高額な保険料を払っていたのなら、ビジネスとしてはかえって失敗かもしれません。一方、そんな「保険料」を支払わないで、不利な条項を受け入れて素早く締結した会社の方は、問題が生じたことによって損失が出たとしても、総合的には大きく利益を得ていたかもしれないのです。そう考えると、問題が起きてから、「こんな契約を締結したのが問題だ」なんて、安易に言うことはできないはずです。(私もついついそんなこと言っちゃいますが。。。) かといって、保険料を全く払わないで経営していたら、大問題が起きて会社が潰れることもあり得ます。コンプライアンスの体制を作り実行していくためには、かなりの「保険料」が必要となります。その保険料を惜しんで、突っ走っていくだけですと、あの大手中古車販売のビッグモーターのように、どこかで大失敗することになります。多くの経営者の人たちも、そんなことは百も承知の上で、どのようなリスクに対して、どこまでの保険料を支払うのかを考えているわけです。「無保険で暴走する無鉄砲さ」と、「保険料の払い過ぎで身動きが取れなくなる過剰防衛」。その間で一体どこまでの保険料を払い、どこまでのリスクをコントロールすべきかを経営者と共に考えることも、弁護士の重要な仕事なのだと思うのでした。
弁護士より一言
「弁護士に支払う顧問料も、一種の保険料のようなものだよね。保険料を負担しない方が良い会社もありそうなんだ」と娘に話したところ、「そんな弱気なこと言ってちゃダメ。『うちの顧問料は絶対にお得です』って自信を持たないと!」 そ、それなら、「会社が潰れてしまっても、顧問料を支払いたくなる弁護士です!」と宣伝するのはどうと提案したら、「それは良いね!」と盛り上がりました。あ、あほか。。。 (2026年10月16日 文責:大山 滋郎)





