弁護士のヴィンテージ

第421号 弁護士のヴィンテージ

ヴィンテージとは、「ぶどうが収穫された年」を意味します。

年によってワインの出来が違いますので、古いヴィンテージほど価値があるというわけではないのです。時間が経つ中で、良いワインも「酢」に劣化することさえあります。そうは言っても古いヴィンテージの方が評価されるようです。1945年産のロマネ・コンティは1本1億円を超えるそうです。うちの事務所でも、はっきり言って若手弁護士の方が私より実力は上です。それでも「本件は大山先生にお願いしたい」みたいに言って貰えることがあります。そういうときは私も古いヴィンテージものになったのかと、感慨深いものがあるのです。しかし高額なヴィンテージワインの場合、取引しているお金持ちはそのワインを飲まないそうです。ワインは、温度調整が完璧になされている倉庫に保管されたままです。一度でもコルクを抜いて「劣化して飲めない」と判明した瞬間、価値がゼロになっちゃいます。彼らは「一度も開けられていない瓶」と「権利書」を右から左へ動かしているだけだそうです。中身の味ではなく、「奇跡のヴィンテージ」という物語とラベルを買っているわけです。こうなってきますと、「裸の王様」の話を思い出します。王様は「馬鹿者には見えない」という奇跡の服を買ったのですから、それを本当に着てみる必要はなかったと思います。大切に倉庫にしまっておいて、その権利だけ売買すれば、相当の利益を得て賢王と言われたのに残念です。ヴィンテージの話に戻りますと、その年のブドウを100%使う必要はないそうです。基本的には85%くらいのブドウを使っていれば、その年のヴィンテージワインと表示して良いんですね。ある1年に取れたブドウだけ使うと、どうしても味に偏りが出てしまいます。そこで、他の年のブドウも混ぜることで、万人が美味しく感じるワインを作り出すわけです。

最近では、法律相談や契約書チェックにおいて生成AIが急速に進化しています。AIを使えば、過去の膨大な判例リサーチや下書き作成が一瞬で終わります。そうなりますと、法律業務は弁護士による100%のヴィンテージではなく、AIとの混ざりものになっています。私だって、お客様に回答するときにはAIでチェックするようにしています。こうなってくると、弁護士による「ヴィンテージ業務」と言えるためには、どこまでのAI使用を認めて良いのかが問題となってきます。そんなこんなで、法務省からAI使用のためのガイドラインが出されているのが現状なのです。

しかし、実際の弁護士業務を振り返ると、AI以前から私たちは「ブレンド」を使ってきました。事務所の優秀な事務員さんや若手弁護士が膨大な下調べや書面の下書きを行い、最後に有名なベテラン弁護士がチェックして名前ヴィンテージのラベル)を載せました。私がかつて企業法務の現場にいた頃、社内で十分に検討した案件について「念のため有名弁護士の意見書も取っておこう」と指示されたことがあります。「自分たちの検討で十分なのに無駄では」と疑問をぶつけた私に、上司はこう教えてくれました。「これは、万が一事故が起きたときに、君と会社を守るための鎧なんだよ」 企業が求めているのは、完璧なリサーチだけではないのですね。

万が一トラブルが起きた際に、「あの最高の法律事務所の意見を聞いていた」と株主や社会に説明できる「免責という名のヴィンテージラベル」なのでしょう。いくらAIが進化して完璧な下書きを作れるようになっても、AIはトラブルが起きた時に取締役会や株主総会で「私が責任を持ちます」と頭を下げて盾になってはくれません。AI時代の弁護士の価値とは、単に「正しい」判断をすることだけではなく、最後に顧客の盾となって責任を引き受ける「覚悟の重み」にあるのかもしれません。と、そんなカッコいいことを言いつつ私自身は、今日も若手弁護士やAIに法律業務を頼ってばかりいるのです。ううう。。。

 

弁護士より一言

妻はよく「年の差夫婦ですかと聞かれちゃった!」と自慢します。妻とは4歳半しか違わないのですが、

私の方が凄く年上に見えるようです。そんなこと言われて喜んでないで、妻には「うちの夫は高級ヴィンテージものなんですよ!」と言って欲しいのです。                                                                       (2026年9月16日  文責:大山 滋郎)

 

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