脳の中の弁護士
脳の中の弁護士
今回は、ラマチャンドラン先生の「脳の中の幽霊」です。人間の「脳」が如何に不思議か、多くの実例とともに書かれています。脳の損傷によって、本当に簡単な、一桁の足し算も出来なくなった人がいるんですね。しかし、そういう人でも、「数」についての高度な概念は理解できるそうです。その証拠に、その人はこんなジョークに笑うということです。「この恐竜の骨は、何年前のものですか?」と質問された博物館の職員が、「6000万3年前のものです」と答えます。「私が3年前にこの博物館に来たとき、この恐竜は6000万年前のものと教わりましたから!」
有名な、「幻肢」の話も載っています。事故などで腕を切ってしまったにもかかわらず、失くした腕を痛く感じるという現象です。脳の中では、腕は失くなっていないんですね。失くした拳がきつく握りしめられていて、手を開くことが出来ない、爪が掌に食い込んで痛くて我慢できない等と、患者は訴えます。
脳の右側は、身体の左側を支配していますよね。右の脳が損傷すると、自分の左側は認識できなくなるとのことです。例えば、女性の場合、身体の左側はきれいに化粧しておきながら、右半分に対しては、何一つ手入れをしなくなるとのことです。
また、人間の脳は、自分にとって都合の悪いことは、認識しないようにできているそうです。左腕が動かなくなった患者さんは、自分の腕が動かないことを認めないんですね。「関節炎が痛いから、動かさないだけです。」などという言い訳を、大真面目でするそうです。さらには、動かない腕を、自分の腕ではないと主張する人もでてきます。「これは私の兄の腕です。私の腕はこんなに毛深くありません!」
こういう実例の人たちは、いわゆる精神異常者とは違うんですね。その他の点では、普通の人達なわけです。
弁護士の仕事の場合、ここまで凄くは無いんですが、やはり似たような体験をします。痴漢事件で、女性に触っていることは間違いない場合に、「左手が勝手に触ってしまっていた。」というような話をする人はいるんです。覚せい剤の前科もあって、尿から薬が検出されているのに、「絶対使っていない。信じて下さい!」と泣きながら言う人もいました。
被害妄想の法律相談なんかも来ます。「窃盗をしてしまい、警察に捕まりそうで心配です。」なんて相談がきました。見た目は普通の人です。話し方も落ち着いています。しかし詳しく聞いてみると、窃盗は20年も前の万引きなんですね。「その万引きのせいで、見張られている」なんて言い出します。家の前を通る車は覆面パトカーだそうです。上空を飛んでいる自衛隊機からも、観察されているんだそうです!
「脳の中の幽霊」では、脳に生じた妄想を解決する話も載っていました。「妄想」を「現実」として脳に認識させたうえで、それを「解決」してみせると、脳も納得してくれるということです。しかし、自衛隊機による「観察」について、どうやって解決できるのか、悩みは尽きないのです! 「電波」によって攻撃されているなんて言う人の相談も、割とよくあります。そういうときは、「弁護士では対応できないので、直ぐに警察に相談して下さい!」なんてアドバイスしていたんですね。ところが先日来た相談者は、「警察に『うちでは対応困難なので、弁護士に相談してください』と言われて来たんです。」と話してくれました。
「警察も無責任なことをするなあ!」と、自分のことを棚にあげて思ったのでした。
弁護士より一言
6000万3年前のジョークを、当時小学生の次女に話しました。すると、次女は大爆笑したんです。「どこがそんなに面白かったの?」と次女に聞いたところ、「恐竜が出てきたところ!」と答えてくれました。あ、あほか!!
しかし、今になって考えると、私の方がからかわれていたのかもしれないな?と思ったのでした。
皆さまからのコメントを楽しみにしております。
(2014年12月1日 第138号)