パンドラ弁護士の希望

第195号 パンドラ弁護士の希望

「パンドラの箱」は、ギリシャ神話の中の有名な話で す。人間がどんどんと力をつけてきたのを見て、ギリ シャの神様は不安に思います。このままでは自分たちの存在が脅かされると感じたわけです。 そこで神様は、パンドラという名の女性に、あらゆる厄災が詰まった箱を持たせて、人間界に行かせます。 そのときに、「この箱は絶対に開けてはいけない。」 なんて、わざわざパンドラに言うわけです。こんなことを言われたら、誰だって気になりますよね。人間界に行ったパンドラは、箱を開けてしまいます。すると箱の中からは、病気、戦争、裏切りといった、あらゆる厄災が出てきてしまいました。このままでは人間は滅びてしまうんですね。そこで、慌ててパンドラが箱 を閉めると、箱の底に「希望」だけが残されていたという話です。残された「希望」によって、人間は滅びずに済んだという神話です。

 

以上が一般的な「パンドラの箱」の話なんですが、この話はおかしいだろうという、有力な批判があります。そもそも、厄災を詰めた箱の中に、「希望」だなんて前向きなものが入っていたこと自体がおかしい。 さらに、希望があるなら、それこそ箱から出すべきなのに、箱に封印したままにしておいて、それで人類が救われたというのは理屈に合わないというわけです。 ギリシャ語の「希望」という単語には、「先を見通す力」みたいな意味があるそうです。パンドラの箱の中 に残り、人類に広まらなかったのは、この能力ではないかというのが、有力な反対説です。私には、こちらの説の方が、もっともに思えるのですね。変に先を見通す力があると、悲観的なことばかり見えてくるのが人間です。そもそも、何十年後かには必ず死ぬんだなんて本当に理解してしまえば、ほとんどの人は怖く て、満足に生きられないそうです。私をはじめ多くの人は、先を見通す力が与えられなかったおかげで、な んとなくそういう深刻なことは忘れて、毎日前向きに、楽しく生きているんですね。ギリシャの神様が放った多くの厄災も、気が付かず、気に病みさえしなければ、大して怖くないのでしょう。

 

先を見通す力は、弁護士の仕事においても非常に重要です。この力が劣っている弁護士だと、無駄な仕事を バタバタするだけで、お客様にも相手方にも迷惑をかけてしまいます。その一方、人一倍先を見通せる弁護士が良いかというと、そうとも言えないのです。 先が読めすぎる弁護士は、得てして悲観的になる傾向 が強いと思います。戦う前から、これはもうダメだと諦めてしまうし、依頼者にもそんな風に悲観的な話をしてしまいます。ある意味良心的と言えるのでしょうが、私はかなり問題だと思うのです。そもそもお客様は、自分のために誠心誠意頑張って、戦ってくれる弁護士を探しているはずです。少なくとも私が依頼者なら、そういう人を探します。ベテラン弁護士に「これは難しいです」なんて言われた事件を引き受けた新人弁護士が、結果的にはダメだったにしろ、「本当によくやってくれて有難うございました!」と感謝される ような話は、弁護士業界にはよくあるのです。(もっとも、こういうことはどの業界にもありそうですね。) そもそも、諦めずに真剣に活動すれば、最初に目指した目的地には着かなくても、思いもよらない良い結果 を得ることだってあります。錬金術はダメでしたが、 真剣にやったおかげで、化学が進歩したのです。 過剰に悲観的にならずに、全力で対応する!  そこに「希望」が見えてくると思うのでした。

弁護士より一言

妻がギリシャ神話の話を聞きたいというので、寝るときに何回も話してあげたのです。妻もギリシャ神 話が好きなんだなと、信じて疑いませんでした。ところが先日、夜眠れなかったと言ってきた高校生の娘に、妻がアドバイスしていました。「それなら、寝るときにパパにギリシャ神話の話をしてもらうとい いよ。あれを聞くと、すぐに眠くなるから!」 し、 失礼な。しかしこんなことには挫けずに、いずれ孫にもギリシャ神話の話をしてやろうと誓ったのです!

(2017年4月16日発行 第195号)

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