ホトトギスの労働問題
第204号 ホトトギスの労働問題
弁護士のニュースレターらしく、たまには法律問題を 扱います。うちで力を入れている労働問題です。 問題社員を何とかしたというのは、企業にとって深刻な問題ですね。こういうことは、戦国時代の昔からあったようです。役に立たない部下をどうするかについて、信長、秀吉、家康の有名な話がありますね。
鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス
これはもちろん、織田信長です。こういう人に仕えるとなると、私なんかビクビクしてしまいます。
鳴かぬらな 鳴かしてみせよう ホトトギス
こちらは、人使いの名人、豊臣秀吉です。どんな暴れ馬でも乗りこなして見せるという自信を感じます。新興企業のヤリ手社長にいそうな気がします。
鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス
これなんか、高度経済成長期の日本の大企業の考えの ように思えます。少々役に立たない人間でも抱えておけば、そのうち仕えるかもしれないという、大企業の自信です。さすが、江戸幕府を作った家康です。
戦後の高度経済成長期で活躍した松下幸之助が、鳴かぬなら それもまたよし ホトトギス と詠んだのも、家康と同じような自信があったからでしょう。どこかしらで、この人も役に立つことができるはずだ、自分ならそれができるという自信です。
うちの事務所は、多くの労働事件を扱っています。うちに来る労働事件を見ていると、多くの中小企業で、 問題社員の扱いに困っているのがよく分かります。問題社員と言われている人の中には、会社から「何もしないほうが良いので、給料だけ支払うから、会社に来ないでくれ。」とまでいわれていても、本人には自覚がなく、「自分は会社の役に立っている、悪いのは他人だ!」と、心から信じているみたいです。
こういう社員に対して、アメリカの法律では、基本的に、バッサリと首をはねることができます。
鳴かぬなら お前はクビだ ホトトギス
これは、日本企業から見れば、うらやましいことかもしれません。しかし、アメリカの場合、労働契約で、 それぞれの従業員の職務範囲が決められています。つまり、「鳴くこと」が職務範囲に入っているからこそ、 それができない場合には、解雇できます。それに対して日本の場合、特に「何が職務だ」と決めずに採用するのが一般的です。こういう事情も相まって、日本の裁判所は余程のことがないと解雇を認めません。
鳴かぬのは 会社が悪い ホトトギス というのが、日本の裁判所の基本的な考えです。
具体的に裁判所が会社に求めるのは、次の2点です。
鳴くように 教育しなさい ホトトギス 鳴く場所に 移せばいいでしょ ホトトギス
大企業ならこれも可能かもしれませんが、「中小企業にここまで要求するの?」という不満は消せません。 この不満をあるとき労働裁判の裁判官にぶつけたら、 すまなそうに、「まあ、法律ですから。。。」と言われました。
法律は、「悪」の資本家から従業員を守ると う建前で作られています。世の中には、「ブラック企業」としか言えない会社が存在するのも事実です。しかし、多くの中小企業は、苦しい資金繰りの中、従業員のために頑張っているのです。サボってばかりいるくせに、「仕事をしろ!」と怒られると、「パワハラだ。」 なんて騒ぎ立てる従業員を何とかしたいものです。
鳴けですか それはパワハラ ホトトギス
弁護士より一言
弁護士には、それぞれ得手不得手があります。法律知識にたけている弁護士は、見通しが良いだけに、お客様が何を言っても冷静に「それはこうなります。」と返答します。お客様にとっては、それが冷たく感じられるんですね。
見通しが悪い弁護士の場合、お客様の問題提起をうけて、本気で悩み、真剣に考えます。その態度が、信頼につながっていくことも、よくあることです。
鳴けぬこと それが強みだ ホトトギス
仕事がらみだと、こういう風に考えられるのに、子供のことになると「世間並みに鳴いて欲しい。」と思ってしまう。あ、アホか!と自分に言いたいです。ううう。。。(2017年9月1日発行)