弁護士の器量

第304号 弁護士の器量

自分の器は本当に小さいなと、自覚せざるを得ないときがあります。研修で中国に行ったとき、大した時間でもないからと、エコノミークラスを使ったんです。ところが、他の人たちがビジネスクラスだと知ったときに、凄い引け目を感じて「私はエコノミーです」と言えなかったんです。ううう。。。

 

というわけで、「論語」です。理想の人間とはどういうものか、2500年以上前から指針を提供しています。論語の中に、孔子が弟子を評した言葉があります。「ボロを着ていても、着飾った人たちの間にいて、少しも引け目に感じない」という誉め言葉です。中学生の頃この部分を読んで、「なんかしょぼいな。こんなの褒められるほどのことじゃないだろ!」なんて思ったものです。還暦近くになって、自分の器量が分かるに従い、これがどれほど凄いことか、ようやく分かってきました。詰まらないことで他人に引け目を感じてしまうものなんです。

 

論語の中には、こういう教えが沢山出てきます。孔子が別の弟子を褒めた言葉に、「怒りを移さない」というのがあります。要は、「八つ当たりしない」ということです。これまた「わざわざ言うなよ。当たり前じゃん!」と思ってしまう一方、本当に実践しようと思うと、大変難しい。恥ずかしながら私は、何かで腹を立てていると、関係ない人への対応も、きつくなってしまうのです。こういうの、私が尊敬しているような人についても感じることがありました。裁判官や検察官と話していても、「今日は何故か機嫌が悪いな。何かあったんだろうか?」なんて感じるときがあるんです。孔子に褒めてもらえるレベルで、「怒りを移さない」というのは、非常に凄いことだと思うのです。

こんな風に、孔子先生は理想の人間について色々と述べているわけですが、孔子大先生自身の日常生活についても、論語に記述があります。いつも楽しそうにしていたんだそうです。今になって初めて、これがどれほど凄いことか分かってきました。社会的にとても偉い人であっても、いつも不機嫌な人、怖い人は沢山います。福沢諭吉先生も、「不機嫌は人間一番の罪」「文明人とはいつでも機嫌良くしている人のこと」とおっしゃってましたが、年を取るほどに、常に機嫌良くしているのが難しくなる。私なんか妻にいつも、「もっとニコニコしてないと」と、注意されています。特に仕事では愛想よくしようと努めているのですが、要領を得ない話を聞いてるときなど、自分では気が付かないうちに、不機嫌が顔に出るそうです。な、情けない。

 

ところが、それほど立派な孔子ですが、本業?である政治家としてはどうかといいますと、あまりパッとしないんです。孔子よりはるかに人間性に劣る人でも、政治家としては優秀ということはあります。そして、こういうことは弁護士についても言えそうです。人間的にはダメでも頼りになる弁護士がいる一方、人としての器量は大きいが、あまり役に立たない弁護士もいます。「人としての器量」と「仕事ができる器量」、どちらを優先すべきかということは、昔から議論されていました。能力優先で人を採用すると、裏切りを心配しないといけなくなる。ゴーンさんを招聘した日産なんて、こんな感じでしょうか。

 

だからといって、人格優先で人を採用すれば、組織の力自体が弱くなってしまいそうです。人格者の弁護士が揃っているが、裁判で負け続けの法律事務所なんて、私だって使いたくありません。落としどころの難しい問題です。ただ、うちの事務所の場合、人間的にも能力的にも器量の大きい若手弁護士を揃えてますから、ご安心ください!

 

弁護士より一言

「パパの機嫌が悪くなるポイントが分からない」と家族に言われます。先日、「パパって、ママと結婚してなかったら、今頃どうしてたかな?」と娘に聞かれた妻が、冗談で「ホームレスになってたかもね」と答えました。娘は私に気を使ったようで、すかさずフォローしてくれたんです。「そんなことないよ。きっとお祖父ちゃんとお祖母ちゃんと、仲良く暮らしてるよ」 な、何で妻以外とは結婚できない前提なんだよ! 不機嫌になる気持ちを、何とか抑えたのでした。

                                                                                                                       (2021年11月1日 大山 滋郎)

 

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