弁護士の3秒ルール
第324号 弁護士の3秒ルール
「3秒ルール」ってありますよね。食べ物を床に落としたときに、「3秒以内なら拾って食べても大丈夫!」というルールです。私なんか、3秒どころか、3分以内なら平気で食べていました。(おいおい)
ただ、時間が経てば経つほど、落ちた食べ物が汚く思えてくることは間違いないところです。こういう3秒ルールみたいなこと、実は法律の世界でもあるのです。人のものを盗むと、窃盗罪になるというのは、一般人にとっても常識でしょう。
しかし、たとえ自分のものであっても、他人が持っているものを取れば、窃盗罪になるのだということは、知らない人の方が多いかもしれません。以前盗まれた自分のものを見つけても、勝手に取り返してはいけないのです。これは、「自力救済」を認めると、社会の秩序が乱れるので、法律で罰する必要があると説明されています。何だか分かったような、分からないような理屈ではあります。
ただこのルールにも例外があります。例えばスリに財布を取られたときに、気が付いて直ぐに取り返した場合なんかです。さすがに、直ぐに取り返した行為まで「窃盗罪」とするのは、常識的にもおかしいでしょう。こういった、「取られた直後にまた取り返すときには、窃盗罪にはならない」というのは、「3秒ルール」に近い考え方に思えます。「3秒ルール」ではないですが、「5秒ルール」というのもあるそうです。
「直感的に行動するためのシンプルな法則」ということで、本が出ています。何かを決めたり、行動を起こしたり、なかなかできないのが、普通の人です。そういう人へのアドバイスですね。5秒ルールとは、何かをしなくてはいけないときに、「5、4、3、2、1」とカウントして、0になるまでにやってしまうというルールだそうです。私なんか、「それができないから苦労しているのに。。。」なんて情けないことを考えてしまいます。
でもこれって、将棋や碁の、秒読みのときの決断と同じかもしれません。10秒以内で手を決めて、指さないと負けてしまいます。そういう状態に自分を追い込めば、意外とできてしまうのかもしれません。
以前トヨタの偉い人の、「現場主義」についての講演を聞いたことを思い出しました。その方によると、トヨタの「現場主義」は誤解されているそうです。「現場」に行くだけでは、現場主義ではないんですね。「現場」で決めて、現場で行動までして、初めて「現場主義」になるんだそうです。現場に行ったのはいいけれど、何も決めず、何もせずに「持ち帰ります」なんて言うのは、現場主義ではないそうです! 「さすがに、日本を代表する企業の偉い人は、言うことが違うな」と、感動したのを覚えています。
実際、法律事務所のお客様でも、直ぐに決断して、直ぐに行動する人ほど、全てにおいて上手くいっているように思うのです。
話は変わりますが、「色紙に何か書いてください」と頼まれた、ピカソのエピソードがあります。さらさらと3秒ほどで書いて、何百万円も請求したそうです。「3秒で、なんでそんなに高いのか?」と聞かれたピカソが言い返します。「3秒ではありません。50年と3秒です」 技術を磨いた時間もカウントすべきだということですね。
弁護士の法律相談の場合、多くの事務所で1時間1万円請求しています。ピカソの値段設定とは比べるべくもありませんが、それでも「1時間の相談で、なんでそんなに高いのか?」なんて、文句を言っている人の声を、ネットで読んだこともあります。私もピカソに倣って言いたくなるのです。
弁護士より一言
子供達が小さかったころ、何か食べさせていると、よく床に落としたものです。そういうときは、妻と一緒に、「1、2、3」と数えて、「3秒以内だから大丈夫!」と言っていました。子供たちが学校に行くくらい大きくなってから、言われたのです。「床に落ちたものを食べるのって、うちだけだよ!」そ、そんなバカな。「3秒ルール」は常識ですよね。。。
(2022年9月1日 大山 滋郎)