弁護士のテールライト

第337号 弁護士のテールライト

若いころから、中島みゆきが好きだったんです。言葉の使い方が本当にうまい。「歌姫」なんて良いですね。

「握りこぶしの中に あるように見せた夢を もう二年 もう十年 忘れ捨てるまで」だなんて、聞いてて辛い。若い頃、この歌を聴いたときは、「本当はあきらめている夢に、しがみついているようで恥ずかしいな」なんて、生意気なことを考えていました。

でも、還暦を迎えた今になると、夢があるように見せるだけでも、大変な努力が必要なんだと分かってきたのです。「永遠の嘘をついてくれ」と望む人達に、「今はまだ僕たちは旅の途中だと」嘘をついてあげるのは、優しさに思えるのです。中島みゆきでの歌で、「誘惑」なんて好きでした。「優しそうな表情は 男たちの流行 崩れそうな強がりは 女たちの流行」なんて、思わず口ずさんじゃいます。

しかし考えてみますと、中島みゆきの歌に出てくる女性たちは、みなさん「崩れそうな強がり」をしていました。「悪女になるなら 月夜はおよしよ 素直になりすぎる」とか「強がりはよせよと笑われて 淋しいと答えて 泣きたいの」みたいな感じです。自分で散々、「崩れそうな強がり」を歌っておきながら、それを自分で「流行」と言うなんて、本当にカッコ良いと思ったのです。こういった「強がり」は、流行というより、あの時代を精一杯生きていた、女性達の頑張りだったんだなと、今になって私も分かってきました。それに比べて、男たちの流行だとされた「優しそうな表情」は、女性の好みに合わせた「流行」だったのかもしれません。「街頭インタビューに答えて わたし優しい人が好きよと 優しくなれない女たちが答える」なんて歌もありました。

 

最近は「草食性」の男が流行だそうですが、これも結局は、女性側の需要に応じただけのなではと、勘ぐってしまうのです。考えてみますと、世の中には色々な流行があります。「今の若い者はなってないと言うのが 年寄りたちの流行」なんてどうでしょう? 歴史と伝統のある「流行」ですね。エジプトのピラミッドの中にも、「最近の若者は」と書かれていたそうです。もっとも、私も分かっていても、ついつい言っちゃいます。「自分は銀行員らしくないと言うのが 銀行員の流行」なんてどうでしょう? 

何年か前に、みずほ銀行が「みずほらしくない人を求む」みたいなフレーズで、新卒社員を募集していました。これなんか、銀行員の「流行」を押さえていたような気がします。考えてみすと、こういった「流行」は、会社関係で、沢山ありますね。「尖った人材がいないと嘆くのが 採用担当者の流行」ですし、「最近の新人は言われたことしかできないと批判するのが、先輩社員の流行」なんて、ありそうです。「そんな尖った人、会社員にならんやろ!」と、思わず突っ込みを入れたくなります。弁護士の「流行」を考えてみます。「国家権力を批判するのが 弁護士達の流行」というのはありますね。国家を批判するのは良いのですが、国家の功績の方を認めないのは問題に思えます。中島みゆきに戻りますと、とても好きな歌に「ヘッドライト・テールライト」があります。ヘッドライトが「照らすのは まだ咲かぬ 見果てぬ夢」です。そんな夢を追い求めてみんな頑張って生きてきました。

私もその一人なのです。でも人は、歳をとるごとに、ヘッドライトを頼りに前に進むことが億劫になってきます。それでも、後ろから来ている人たちがいる限り、せめてテールライトは消さずに、もうひと頑張りしたい。

「ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない」 「還暦を迎えても、『嘘』でない『旅』を続けていきたい。たとえ徐行運転で、小さなライトしか付けられなくても」と思うのです。

 

弁護士より一言

久しぶりに出た庭で、ロウ梅が何輪か咲いているのを見つけました。妻に、「今年も咲き始めたね」と報告したところ、「咲き始めたのではなく、1月に満開になったのが散り、何輪か遅れ咲いてる状態」だと呆れられました。ううう。。。 来年は、テールライトに照らされた去り行く梅でなく、満開に向かう梅を、ヘッドライトでしっかりと見ようと決意したのです!                                                                                                                  (2023年3月16日 大山滋郎)

 

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