弁護士の確率(2)
第354号 弁護士の確率(2)
前回は、「高確率」と「事実」は違うのだという話をしました。
一方、法律の世界では、高確率のことがらについて、意味を持たせる場合も多くあります。少し前に、政治家と弁護士の不倫の問題が取り上げられました。この二人ですが、ホテルに一緒に行ったことは認めていましたが、「一線は越えていない」と主張していました。ホテルの部屋の中で性的関係があったかどうか、立証するのはほぼ不可能でしょう。しかし、二人でホテルに入った以上、非常に高い確率で性的関係があったに違いないと、ほとんどの人が思います。
このような「確率」による判断を裁判実務も肯定しており、一緒にホテルに入った証拠があれば、不倫関係もあったと認めているのです。こういった、事実上高い確率で認められることを前提に、判断しようということは、裁判でもよくあることです。離婚の際に、小さい子供の親権は、基本的に母親に認められています。これに対して不満を持っている父親は沢山いますし、具体的な事案においては私ももっともな不満だと思います。
ただ、一般的には、お腹の中から長く付き合ってきた母親の方が、愛情をもって子供に接する可能性は高そうです。養育費さえ支払わない父親も、世の中に溢れています。そんな中で、裁判所も母親に親権を認めているのでしょう。高確率のことがらについて、事実と判断することは、法律にも規定があります。
例えば時効取得の問題です。土地を20年間占有していれば、時効によって所有権を取得できます。自分の土地だということで、フェンスで囲って占有しているような場合ですね。でも、20年間ずっとフェンスがあったことを証明するのは難しい。そこで法律は、「前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定する」と規定しているのです。通常、前後の時点でどちらも占有していたら、相当程度高い確率でその間占有していたと考えられますよね。ずっとフェンスで囲われていたことの証明はできなくても、1年目と10年目の写真にフェンスが移っていれば、その間もフェンスがあって、占有を続けていたと認定して貰えるわけです。
そう言えば、沖縄の基地反対の座り込みで、何百日座り込み継続なんてやっていますよね。それに関して、「実際は誰も座り込んでいなかった」なんて、写真付きのSNSで取り上げられたことがありました。「そんな大人気ないことしなくても。。。」と私は思いましたが、こういった「反証」が出てくると、推定は破られることになります。5年目にはフェンスが無かったことの証拠が出てくるようなものです。高確率をもとにした、裁判等での事実認定の話に戻ります。世の中には、「高確率」ではあるけれども、認めて良いのか悩んでしまう、不都合な事実があるのです。例えば電車内の痴漢事件で、捕まった人が「あんなババアに触るわけないだろう」なんて言った事件がありました。この言い草、たとえ弁護人の立場でも「ふざけるな!」と怒りたくなります。
その一方、うちの事務所では多くの痴漢事件を扱ってきましたが、被害者の圧倒的多数は、10代20代の大人しそうな女性であったことも事実なのです。私が現実に担当した痴漢事件で、「あんな怖そうな女性に間違っても触りませんよ」と、被疑者が無罪主張していた事件がありました。でも、「間違って触ったかもしれないからお詫びする」ということで、私が示談に行ってきました。この「被害者」、奇人変人のオーラが全開で、とても怖かったのです。私もいきなり叱られました。大きな声では言えませんが、「この人に痴漢しようなんて人、居るわけないのでは」と私も思ったものです。
この件、示談はできなかったのに、理由は不明ですが検事は不起訴にしてくれました。検事も被害者から事情聴取をしてみて、私と同じ感想を持ったのではと思ってしまったのです。
弁護士より一言
ライフワークとして減量を続けています。頑張って少し痩せると、またすぐに油断してせんべいを食べてしまう。すると家族から「もう、減量は止めたの?」なんて聞かれると、自分で分かっているからこそ、腹が立つ! 前後両時点において減量した証拠があれば、その間減量していたと認めて欲しいものです。 (2023年12月1日 大山滋郎)