弁護士の火星人

第366号 弁護士の火星人

「宇宙戦争」は、19世紀末に書かれた、HGウェルズの古典SFです。

火星から、タコのような宇宙人が地球に攻めて来るという話です。人類の兵器や軍隊は火星人に対して、全く役に立たない。火星人が持ち込んだ赤い植物が人間の血液を吸い取るなどの、鬼畜の行為が行われます。人類はこのまま終わってしまうのではないかという危機感を覚える中、そんな凶悪な火星人が、一気に滅んでしまいますが、その原因は風邪の病原菌だったという結末でした。地球人は、長い年月の中で風邪に対する免疫力が付いていました。

一方、火星人にとっては全く初めての打撃で、感染によって滅亡にまで追い込まれたのです。世界的にコロナ対策をしていたころ、「コロナは風邪と同じだから大したことない」なんて主張している人が相当数いましたが、風邪というのは意外と怖い病気なのかもしれません。ウェルズの「火星人」の影響力が大きかったので、それを踏まえた多くのSFが生まれました。レイ・ブラッドベリが1940年代に書いたSF小説「火星年代記」なんて有名です。この小説によると2024年の現在では、既に火星への移民が始まっています。移民は、現地の火星人の抵抗により何度も失敗しますが、移民の持ち込んだ病原菌が原因で、火星人は絶滅してしまう。火星年代記は、西洋人がアメリカ大陸に侵略し、その病原菌で現地人を滅ぼした歴史も踏まえているそうです。火星に移民した人たちが、地球で問題が生じるやみんな引き上げて行きます。コロナ問題で海外駐在が帰国したのと同じですね。ウェルズの宇宙戦争のパロディは沢山あります。フレドリック・ブラウンの「火星人ゴーホーム」も有名です。火星人が地球侵略というよりも、地球観光にやって来るSFです。

このSFの火星人は、人類からのあらゆる物理的な攻撃も受け付けません。そして、どんなところにも入り込み、人々や国家のあらゆる秘密にアクセスして、それについて声高に話し回ります。火星人のこういった秘密の暴露によって、地球文明が崩壊してしまうという、ユーモラスだけど怖い話です。

しかし考えてみますと、火星人によってあらゆる秘密が暴露されるようになれば、政治家の汚職なんて無くなりますね。あらゆる犯罪の真実がはっきりするから、冤罪事件もなくなるはずです。そう考えると、悪いことばかりではないのでしょうけど、いつ自分の個人情報が人目にさらされるかと思うと、安心して暮らせない気持ちもわかります。しかし、現代社会でも、かなり似たようなことが起こっているようです。ネットで問題を起こした人は、すぐに「特定」されて、さらし者にされます。少し前に、子供を乗せたママチャリが、道路を逆走しているユーチューブが話題になりました。確かに危険な行為ですが、そんなさらし者にしなくてもいいじゃないかと思ってしまいます。身内の集まりだからと思ってポロっと言ってしまったことが大問題になることもよく起こります。麻生さんや森さんといった総理経験者の失言など、よく問題視されます。確かに発言自体は決して褒められた内容でないのは事実です。政治家なんだから、もう少し発言に気を付けるべきだと思います。

その一方、身内の集まりの気楽な発言を、殊更言い触らす人に対しては、「お前は火星人か!」と言いたくなっちゃうのです。弁護士の仕事の中でも、以前は「秘密」であった事項が、白日の下にさらされるようになったと感じています。労働紛争などで、会社側の暴言など、昔は「言った」「言わない」の水掛け論になったものです。

しかし最近は、従業員側がしっかりと録音している事例の方が多数派です。私も会社に対しては、「従業員への言葉は録音されているものだと考えて話してください」と、アドバイスしています。これは、会社の人の方の意識付けという意味で、良いことかもしれません。今後は全ての人が「火星人」と共存していく必要がありそうです。

 

弁護士より一言

妻が一人で行くことにしていた温泉ですが、私も行けることになりました。妻が旅館にその旨を伝えたところ、念のためということで確認されたそうです。「いらっしゃるご主人様は、以前いらしたご主人様と同じ方でよろしいでしょうか?」 ち、違うご主人がいるのかよ! でも、火星人があらゆる秘密を暴露する世界になったら、こういう気遣い?もなくなるんでしょうか。                                                                                                   (2024年6月3日  文責:大山 滋郎)

 

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