シジュポスの弁護士

第368号 シジュポスの弁護士

シジュポスは、ギリシャ神話に出て来る、神様を騙そうとした悪人の名前です。

罰として神から、重い大岩を山頂まで持ち上げる苦行を科されます。ところが頂上まで持ち運ぶと大岩はまた転がり落ちてしまう。そこでシジュポスは、この苦行を、永遠に続けることになります。

この神話は、フランスの哲学者カミュが、「シジュポスの神話」という本で紹介したので、大変有名になりました。カミュによれば、これは人間の「無意味で不条理な営み」を象徴する神話なんだそうです。しかし私は、若い頃にカミュの本を読んで、とてもじゃないけど納得できなかったのです。例えばドミノ倒しなんてありますよね。延々とブロックを並べてから一気に倒します。これなんか、外から見ればシジュポスノの苦行と同じようなものです。しかし、楽しいからやっているんです。スキーで、山に登って、また滑り降りるのだって同じでしょう。私だって、全てに関してドミノやスキーと同じように考えられないことは理解しています。それでも、「ドミノやスキーをしている人たちに対して、カミュ先生は不条理というのかよ!」と、突っ込みたくなります。私は活躍している人から話を聞くのが趣味で、色々と教えて貰います。弁護士として独立してから、様々なお客様に会いました。身一つで頑張って成功した人の話なんか、本当に聞き応えがあります。学歴も技術もない中で、心無い人たちに馬鹿にされながらも、妻や幼い子供のことを思って、なにくそと頑張ったといった話です。死ぬほどの苦労をして、大岩を山頂まで持ち上げたのです。

ところが、成功後の話を続けて貰うと、なんか雲行きが怪しくなります。「お金が入って来たんだけど、せっかく稼いだのに税金なんて払いたくないじゃん。それで、愛人に現金で1億預けていたら持ち逃げされてひどい目にあったよ!」みたいな感じです。「えー、な、なんですかそれは。さっきまでの私の感動を返してください」と言いたくなりました。ところが、大岩が下まで落ち切ると、また頑張りだします。持ち逃げや放漫経営によって事実上破産したような状況から、また巻き直していきます。そういったところが本当に素晴らしい。

もっとも、こういう成功者の話を聞いて、「自分なら、1回目に成功した後に、そんなバカな間違いはしない」と批判するような人もいました。それはそうかもしれません。ただ、あまり大きな声では言えませんが、そんな風に言う人は、そもそも最初から大岩を山頂に持ち上げることは出来ない人のように思えます。私が好きな中国の熟語に、「創業守成」というのがあります。創業は易く、守成は難し」という意味だそうです。大岩を山頂まで運ぶのは簡単だが、そのまま山頂に置いたままにするのは難しいということだと理解しています。以前はこの言葉がよく理解できませんでした。

普通に考えれば、創業の方が難しいように思えますが、還暦を過ぎて、ようやく自分なりに理解できました。これは、「創業できるような能力を持っている人にとっては、守成の方が難しい」ということなんですね。毛沢東だって、1950年くらいで死んでいれば、世紀の偉人でいられたはずです。ところが生きていると、どうしても大人しくしていられない。「永久革命」とかしちゃいます。それによって、それまでの業績をぶち壊してしまうのでしょう。弁護士でもこういうことはあります。弱い人たちのために、手弁当でも助けていたような弁護士が、経営が上手くいきだすと、急におかしくなったなんて話を聞きます。怪しい人たちの弁護を引き受けたり、事務員さんに対して暴君になったりします。傍から見ていると、せっかく頂上に持っていった大岩を、わざと転がり落とそうとしているようにしか見えないのです。

ただ、こういう弁護士も、岩を持ち上げるときには凄い人です。私も、他の弁護士のことをあれこれ言わずに、自分の「大岩」を山頂に持ち上げるよう、頑張ります!

 

弁護士より一言

「デブ」はともかく「肥満」みたいな言葉も、最近は差別用語ということで避けられているようです。それでは何と呼ぶかといいますと、「ワガママボディー」というそうです。私もこれまで、何度も「ワガママ」を止めようと減量しました。でも成功すると、痩せた状態から滑り落ちる快感で、元に戻ってしまうのです。シジュポスも、私と同じように感じていたのかも。。。                                                                                                      (2024年7月1日  文責:大山 滋郎)

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