弁護士の春秋左氏伝

第407号  弁護士の春秋左氏伝

「春秋」というのは、孔子が編集したと言われている古代中国の歴史書で、「左氏伝」はその解説書です。春秋は年代ごとに重大事件を淡々と書き綴っています。

たとえば、「僖公28年冬 天王河陽に狩りす」みたいな感じです。現代日本でも昭和や令和といった年号を使うと、いつのことなのか分からなくなります。「僖公28年って何時なんだよ」と、思わず突っ込みたくなりますが、内容的には、「王様が狩りに行った」というだけです。

ところが実際には、これは「王様が臣下に呼びつけられた」という、かなり屈辱的な歴史を記述したものだというのです。「春秋」は、事実を簡潔に書いてるんですが、余りに簡潔すぎて、何が何だかわからないんですね。こんな風に春秋の内容は簡潔すぎるから、左氏伝という解説書が必要となるわけです。

実はこれ、日本の法律の場合も当てはまります。法律の条文はかなり簡潔に書かれています。例えば民法の第1条には、権利の濫用は許されないと規定されています。でもこれだけ見ても、具体的にどの場合が正当な権利行使なのか、はたまた権利濫用なのか分かりません。「自分がやる場合は正当な権利行使で、相手方がやる場合は権利の濫用だ」なんて、皮肉なことまで言われてます。そこで解説書が必要になります。左氏伝と同じように、様々な事例と共に「濫用」のケースが解説されているのです。さらに左氏伝は、単に解説するだけでなく、春秋とは真逆の解釈を付ける場合もあります。春秋に「隠公四年、主君殺しの者が処刑された」とだけ記述されている事実に関して左氏伝では、主君殺しに加担した我子を国に突き出したというエピソードが書かれています。そんな親の行動を、「大義、親を滅す(国の義務のためには親族の情も顧みない)」という「名言」と共に称賛しています。春秋を作った孔子は、家族の情を優先すべきとの主張でした。「父は子のために隠し、子は父のために隠す。正直というのはそういうころにある」なんて言葉を残しています。

ところが、春秋の解説書である左氏伝では、孔子の思想と正面衝突するような「大義滅親」があたかも良いことのように書かれています。こういうことは法律の世界でもよくあります。最初に法律を作った人達の意図とは全く違った風に、法律が解釈されることはよくあります。民法では、2週間前に通知すれば従業員を首にできると書いてあります。民法を作った人の意図は明確です。しかし解説書を読むと、正当な理由が無ければ解雇は無効とされていました。これなんか春秋と左氏伝の関係と同じです。ちなみに、家族の情と国法秩序との間で、どうバランスを取るかというのは、かなり難しい問題です。親子の情重視も行き過ぎると、法律を律儀に守る人がバカを見る世の中になりそうです。ちなみに現代日本の刑法では、妥協点を見つけようとしています。

例えば犯人を匿ったりすればそれだけで罪を問われますが、自分の家族を匿った場合は、犯罪ではあるけれども、刑を免除できるといった規定があるのです。孔子先生が見れば、まだまだ不十分だとおっしゃるかもしれませんが、「大義、親を滅す」といった左伝の考えと比較すれば、十分に情の通った法律に思えます。左氏伝の話に戻ります。春秋には、「成公十六年春、晋が楚を破った」とだけ書かれている歴史について、左氏伝は楚が敗れた原因は、楚の将軍子反の失敗にあったという解説を付けた上で、「楚の子反、楚を破る」という名言を残してくれます。

ちなみに先日の選挙を春秋風に記録するなら、「令和八年春、自民が立憲を破った」となるはずです。これをもとに、立憲の敗北の理由を解説したうえで、「立憲の野田、立憲を破る」と名言で締めくくるのが左氏伝です。なんて下らないことばかり書いて、「横パの大山横パを破る」なんて言われないように気を付けます。。。

 

弁護士より一言

刑事弁護では、被害者と示談をすることが重要です。遠いところにいる被害者でも、会ってくださるというなら、時間を都合して駆けつけます。でも、中には遠方まで行ったのに、犯人の悪口を散々聞かされたうえで、示談には応じてくれない場合もあります。それだけお怒りなのだと気持ちは分かります。春秋に倣い、「弁護士、狩りに行く」と記録しときます。

                                                                                                                   (2026年2月16日  文責:大山 滋郎)

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