弁護士の勇気ある言葉
第417号 弁護士の勇気ある言葉
狐狸庵先生こと、遠藤周作のエッセーが好きでした。
遠藤先生は今の基準からすると炎上しそうなことをズバズバ書いていたのです。遠藤先生の時代も、反政府デモの参加人数は、主催者発表は警察発表より数倍多かった。でもこれを指摘すると、「体制におもねっている」と非難されるから、ほとんどの人は沈黙していました。これって今もほとんど同じ状況ですよね。ところが狐狸庵先生は、エッセーの中ではっきりとおかしいと指摘していました。まさに勇気を持って言うべきことは言う人だったのです。
「勇気ある言葉」は、そんな狐狸庵先生の50年以上前のエッセーです。多くの問題発言があるんですが、現代でもそのまま「勇気ある言葉」として通用しそうです。例えば少し前に「お母さん食堂」という言葉を使ったコンビニが非難されていました。女性と調理を結び付けることにより、性別による役割分担が固定化されることが問題だそうです。でもこの問題は「勇気ある言葉」が書かれた頃にもありました。当時の食品のCMで、男性が「ぼく食べる人」と言うと、女性が「わたし作る人」と返すのがあり、これが女性に対する差別だと非難されたのです。このCMは問題だと私も思います。でも遠藤先生は、この非難に対して「勇気ある言葉」を向けます。それなら男女で外食するときに、男性が当然の様に支払うことはどう考えるのかというわけです。コリアン先生は、女性が「わたし食べる人」と言うと、男性が「ぼく払う人」と言うCMを作れば良いなんて無茶苦茶な意見を述べていました。
もっともつい最近も、デートのときに男性が払うべきかなんて議論になっていたことを考えると、こういう議論は50年前から進歩していないようです。狐狸庵先生は当時の若い女性についても批判していました。「これほど怠け者で退屈な人はいない」そうです。ここまで言った炎上しなかったのは本当に凄い! 現在70歳を超えている、当時の若い女性の意見を聴きたいものですが、「私たちの若い頃と違って最近の若い娘は。。。」なんて言ってそうな気もします。狐狸庵先生が「勇気ある言葉」を書いていたころは、多くの女性が当然のように専業主婦になっていました。そんな女性が理想とする夫は「サンジのあなた」だったそうです。「サンジ」とは「育児」「炊事」「掃除」の3つができる夫です。遠藤先生は、男性は仕事もして家事もするなんて、それでは「惨事のあなた」だなんて駄洒落を飛ばしてました。
その後のバブルの頃には、理想の夫として「三高」(高収入、高身長、高学歴)なんていうのが出てきました。バブル後、女性も働くのが当然になる中、また世の中は「サンジのあなた」を評価しだしたようです。狐狸庵先生が生きていたら、現代の共働き世帯で家事をする夫は「惨事」ではなく「賛事のあなた」だと褒めてくれたでしょうか? 狐狸庵先生を見習い、私も弁護士として勇気ある言葉を言いたいのです。
弁護士業界にいる人たちは、「人権」「平等」「平和」みたいな言葉が大好きです。それに反するような言葉はなかなか口にできない雰囲気があります。こういう発言に勇気が必要なのは間違いありません。しかし何と言っても、勇気ある言葉が必要なのは、お客様との関係です。依頼者の中には、自分が絶対に正しいと信じている人がいます。そういう人に対して、「相手の言い分にも十分な根拠がある」とは、なかなか言い辛いところがあるのです。しかし、勇気をもってどこかで指摘しないと、後になって「何故言ってくれなかったのか?」なんて非難されることになります。
一方考えてみますと、依頼者が弁護士に対して苦情を言うのは余程のことのはずです。弁護士への勇気ある言葉を真摯に受け止めないといけないと思うのでした。
弁護士より一言
二人並んで乗れるエスカレーターで、左側には長蛇の列ができていても、右側は誰も乗っていないことがあります。誰かが右側にも乗って、歩かずにいてくれれば良いのにと思います。勇気を出して右側に乗って歩かずにいたら、一緒にいた娘から「パパ、恥ずかしいから止めてよ」と言われてしまいました。娘は私の行動を「勇気ある」ものと考えずに、「協調性のない老害」と思っていたみたいです。ううう。。。 (2026年7月16日 文責:大山 滋郎)





