弁護士の飴と鞭

第247号 弁護士の飴と鞭

 昔から、人を動かすには「飴と鞭」を使えと言いますよね。良いことをしたら褒美を与えると共に、悪いことをしたら、罰を与えるということです。現代社会でも、国は様々な飴と鞭を使いこなしています。

 鞭の代表は、何といっても刑法です。好ましくない行いをした人に、刑罰という鞭を与えます。その一方、国家にとって好ましい行為をした場合に、様々な「飴」を用意することもよくあります。個人事業者が、納税の際に青色申告をしたら、税金を安くするというのも飴の一種です。女性や身障者を積極的に雇用した会社には、補助金その他を優先的に与えるというのも飴です。結婚したときに、政府に婚姻の届け出をすれば、色々な便宜を図るという、国の婚姻制度も飴といえる
でしょう。現代社会は、鞭ではなくて、出来るだけ飴を使おうとするそうです。政治家を含む多くの人は、「鞭」を振るうのは嫌ですから、出来るだけ「飴」をあげることで、世の中をコントロールしようとするんでしょうね。

 

例えば、現在「少子化」が大問題となっています。これについて、ほとんどの人が「飴」をあげることで解決しようとしています。「女性が子供を生むたびに1000万円あげれば、少子化問題は解決する。」なんていう、凄い意見を先日読みました。確かにこれで解決するかもしれませんが、「そこまで飴を使うのか!」と感じたのも事実です。良くも悪くも、少子化問題は、飴ではなくて鞭を使えば、もっと簡単に解決できそうな気もします。日本は、外国から「人口調整手段として中絶している。」なんて批判されるほどの中絶大国です。日本の法律では中絶は原則禁止されており、違反した本人だけではなく、中絶手術をした医師にも、厳しい罰則が定められています。しかし現状、この法律は事実上適用されていないんですね。法律を文言通りに適用するだけで、「鞭」の効果により、毎年十数万人の人口増加が見込めます。しかし、そんな社会はだれも望んでいないでしょう。私だって、少子化問題を「鞭」によって解決することには、反感を覚えます。

 

2300年ほど前に書かれた、中国の「韓非子」は、「飴と鞭」の使い方の説明から始まります。韓非子大先生は、「飴を人にあげるのは良い気持ちになれるし、相手からは感謝される。それに対して、鞭を与えるのは、自分も気が進まないし、人から恨まれるのが嫌だ。」といった人間の本性を説明します。そんな本性を前提に、人の上に立つものは、飴だけではなく、鞭も自分で使わないといけないというのが韓非子の教えです。言うは易いのですが、自分でやるのはやはり難しそうです。

 

というわけで、弁護士にとっての飴と鞭です。弁護士の報酬は、依頼を受けるときに発生する着手金と、目的達成のときに生じる成功報酬の2本立てが普通です。この成功報酬は、まさに良い結果に対する「飴」というわけです。一方、手抜きの活動をしても、余程のことがないと鞭はありません。だから、着手金泥棒なんて批判される弁護士も相当数出て来るんです。うちの事務所では、事務所の活動に不服があれば、着手金全額返還で契約を解除できるという「鞭」を作ることにしたのです。契約解除という鞭があれば、気を引き締めて活動できるという考えです。さらに弁護士の場合、裁判所の決めた納期を守らなくても、ほとんど罰則はありません。逆に、真面目に納期を守っても、特に飴を貰えないんですね。そんなわけで、多くの弁護士は、納期を守ろうという意識が低いんです。裁判所としても弁護士に鞭を振るいたくないでしょう。私みたいに(ホントかよ!)真面目に納期を守っている弁護士には、せめて何かしらの飴を与えることを考えて欲しいものです。

 

弁護士より一言

4月から大学生になった長女は、アルバイトを始めました。最初に貰ったアルバイト代で、妻と私にご馳走してくれました。さらに、祖父母にもてプレゼントを選んでいます。妻は、「優しいね。」と感動して、その後娘に誘われるままショッピングへ出かけ、いろいろと買ってあげてました。「まず飴を与えるとは、なかなかやるな!」と、私も感動したのです。

(2019年6月16日 大山 滋郎)

 

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