弁護士の人生処方詩集

第256号 弁護士の人生処方詩集

ドイツの作家、エーリヒ・ケストナー(「飛ぶ教室」や「ふたりのロッテ」といった児童文学で有名な人ですね)に、「人生処方詩集」という面白い本があります。ウイットに富んだ、考えさせられる詩がいっぱい載っています。「これが運命だ」という詩は、こんな感じです、「妊娠と 葬式のあいだに あるものは悩みだけ」 な、何ですかこれは! 読んでいて暗くなる詩がケストナー大先生は得意ですね。

 

「人生がくりかえされたら」なんて、ファウスト博士のような詩もあります。「誰でもこういう気持ちになる もう一度16になってみたい そしてその後で起こったことを みんな忘れてみたい」というわけです。

しかし、結局は前と同じようなものを見て、同じようなことをしてしまうだろうと、詩は続きます。「同じ光景を もう一度君は見たいかい?」と自分自身に問いかけ、「見たい!」と答えて終わる詩です。私も16歳に戻ってまた受験勉強するのかと思うと、目の前が真っ暗になります。それでも、もう一度やってみたいなとも思うのです。生涯独身だったケストナーは、「結婚」に対して皮肉な詩を作っています。「彼女たちの香りは ビスケットを思わせる 香ることは彼女たちの人生の目的 金のある男が一人ずつ 彼女たちを客間にすえる ひとはこれを結婚とよぶ」んだそうです。そんなこと言っているから、結婚できなかったんだよと、思わず突っ込みをいれたくなります! 

 

人生処方詩集の中に、弁護士が出て来る詩が、一つだけあるんです。「合成人間」を作ることに成功した、ブムケ教授の話で、私の一番好きな詩です。ブムケ教授は、わずか7時間で、完成された合成人間を作り出せるようになりました。教授によると、若いころの時代というのは、完成された人間を作る為の過程でしかないので「幼年期や青年期は時間潰しに過ぎ」ないそうです。そこで教授は、弁護士を例に挙げて、説明してくれます。「たとえば、弁護士の息子を一人欲しい方は、注文さえなさればよいのです」 日本の弁護士業界では、少し前から売り手市場になってきました。新人弁護士が採用できないという事務所のことをよく聞きます。たとえうまく採用で来ても、なかなか即戦力というわけにはいきません。そんな中で、ブムケ教授の話に耳を傾ける法律事務所は、沢山ありそうな気がしてきました。

 

そもそも新人弁護士は、まだまだ足りないところが多いのも事実なので、初めから完成された弁護士が欲しくなります。そういう要望に対して、ブムケ教授はとても良い解決策を提供します。一人前の弁護士を育てるのに、「これからはもう、ゆりかごと幼稚園の回り道をして、卒業試験やその他の試験をパスするまで待つ必要はないのです」と、教授は言います。わずか7時間で、どんなに難しい法律問題にも精通した弁護士が、出来上がるんだそうです。思わず私も、「こ、これだ!」と叫んでしまいました。おいおい。。。ブムケ教授の詩は寓話に過ぎませんが、最近の現実は、ケストナーの「合成人間」に追いついてきているようです。少し前に、アメリカの実験で、「AIによる契約審査の方が、弁護士がやるより早くて正確だとの結果が出た。」という記事がありました。こうなってきますと、近未来では本当に、「人を育てるなんて時間の無駄」と言われるようになるかもしれません。

 

しかし私自身を省みると、多くのお客様に助けてもらい、一人前の弁護士に育てて貰いました。そのご恩返しの気持ちで、後進を育てていこうと思うのです。もっとも、うちの事務所の若手弁護士たちは、「もっと仕事をする、完成されたボス弁護士が欲しい。」なんて言ってそうで、心配になったのです。

 

弁護士より一言

中学生の息子と二人で、家の近所で食事しました。会計を覗いた息子が「えっ! そんなに高かったの? それじゃ、自分で稼ぐようになったら、外でなんか食べられないかも。」なんて言います。な、情けない。こないだは「お金稼いで、パパとママにご馳走するね」って言たのに。ケストナー大先生は、「合成人間」の詩の最後で、「そこで私は40歳の息子を一人注文した」なんて、オチを書いてました。「完成された息子が早く欲しい!」と、私も一瞬思っちゃいました。でも、パパとの食事に付き合ってくれて、有難う!                      (2019年11月1日 大山滋郎)

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