弁護士の火の鳥

第374号 弁護士の火の鳥

「火の鳥」といえば、手塚治虫のライフワークです。

火の鳥は、時空をこえて存在する超生命体で、その血を飲めば不老不死になれると言われている。そんな火の鳥を狂言回しに、過去と未来の人々を描いたSFです。古代日本を描いた「黎明編」やはるか遠い未来の宇宙を描いた「未来編」と、過去と未来を行き来して話が十数編続きます。未完な火の鳥ですが、特に傑作と評判なのが「鳳凰編」です。舞台は東大寺建築のころの奈良時代です。我王と茜丸という、二人の仏師を主人公にして話が進んでいきます。我王は、殺人や強盗を繰り返す悪党です。現代の裁判でこういう人を弁護するときには、その生まれや生い立ちにも言及します。「被告人我王は、生まれてすぐ片目片腕をなくし、醜い顔ということもあり、大変苦しい子供時代を送りました。そんな我王が生きていくためには、悪事に手を染めるしかなかったのであります」、なんて弁護するんですね。

もっとも、こういう弁護をあまり長くすると、裁判官からは「本件公訴事実と直接の関係ない情状ですから、もう少し手短にお願いします」なんて注意されます。更に検察官からは、「そういう境遇でも立派に生きている人は沢山います。現在の犯罪者になったのは、被告人が自ら選択した生き方によるものです」なんて厳しい指摘を受けることになるのです。ううう。。。 

もう一人の主人公の茜丸は、優秀な仏師として、「火の鳥」を彫刻するために旅を続けています。イケメンでさわやかな好男子なんです。僻みっぽい私なんか、これだけで茜丸が嫌いになりそうです。こんな二人が出会って、物語が始まります。我王も、私と同じ様に茜丸が気に入らなかったのか、強盗にとどまらず、仏師にとって命ともいえる茜丸の右腕を切り落としてしまいます。「俺と同じ片腕になってみろ!」ということですね。茜丸は絶望しますが、そこから立ち直り、我王を許すというところで、第1部が終わります。ここまでの茜丸は、本当にカッコいい! しかし、手塚大先生のことですから、このままでは終わりません。我王も大衆の為に仏を作り、民間では有名になっていきます。茜丸は片腕の凄い仏師ということで、宮中に招かれて、皆にちやほやされながら長い年月を過ごします。そんな二人が、東大寺建立での鬼瓦製作で勝負をすることになります。しかし、ちやほやされて腕が鈍った茜丸には、かつての力はありません。勝負は我王の勝ちになりそうなところで、茜丸は昔の我王の犯罪行為を蒸し返した。これによって、茜丸の勝利が決まるとともに、我王は罰として残りの腕までも切り落とされてしまいます。

現代の刑法では、こんな体罰は認められませんが、奈良時代はさすがに残酷です。しかし我王は、自分の境遇に不満を言うこともなく、口に道具を咥えて仏像を作り続けます。一方茜丸の方は、なぜかその後火事にあって、苦しみながら死んでいきます。手塚漫画の特色について「不細工に優しく、イケメンに厳しい」という見解を読んだことがありますが、確かにそんな気もします。茜丸の場合、焼死するにとどまらず、死ぬときに火の鳥が登場して、茜丸のことを厳しく糾弾するのです。「これまで姿を見せなかったくせに、なんだってこんなときに出てくるんだよ」と、思わず突っ込みを入れたくなる一方、茜丸が罰せられることにスカッとするのも間違いありません。

しかし、法律上の罪ということで考えると、我王は間違いなく犯罪者なのに対して、茜丸はその犯罪を告発したに過ぎません。法に触れるようなことは何一つしてないどころか、「正義」を実現したとも言えそうです。みっともない行為かもしれないが、それほど非難されることはないのではと、以前この漫画を読んだときは疑問に思いました。しかし今は、火の鳥は自分自身を許せなかった茜丸自身が呼んできたのではと思い至りました。こんな理屈はともかく、読んでいてとても面白い、傑作SFだと思うのです。

 

弁護士より一言

音楽会など、私は早くから席についているんですが、妻はギリギリで来ます。「パパは簡単に見つけられるから隣の席に直ぐ行ける」んだそうです。私は薄い白髪がふわふわで、後頭部が赤く光っているのだそうです。やっぱり私にはオーラがあるのかと喜んでいたら、更に言われました。「だからコンサートの前にお酒飲むの止めてね!」 お、オーラじゃなかったのか。。。                                                                                                      (2024年10月1日 文責:大山 滋郎)

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