ウォレン夫人の職業

第415号 ウォレン夫人の職業

「ウォレン夫人の職業」は、英国の作家ジョージ・バーナード・ショウが100年以上前に作った芝居です。当時の英国が舞台ですが、現代の日本とも多くの共通点があります。主人公はケンブリッジ大学を優秀な成績で卒業した女性です。子供の頃からシングルマザーの母親と離れて暮らしていた主人公が、母親と会うところから劇が始まります。登場人物たちの会話を通して主人公は、自分に高等教育を受けさせた母・ウォレン夫人の職業が、大規模な売春宿の経営であることを知ります。非難する娘に対して母親は言い返します。貧乏の中で育った自分はどうすれば良かったのか?「身持ちを良くして真面目に働くように」「身を持ち崩したらとんでもない不幸になる」と牧師はアドバイスをしてくれた。しかし、牧師の言うことを守った女性は貧しいまま死んでしまった。

一方「身を持ち崩した」女性は羽振り良く生きていた。自分もそちらの道を選んだというわけです。しかし考えてみるとウォレン夫人はやり手ですよね。現代に生きていても成功間違いなしに思えます。まずは自分の身を売って資本とノウハウを蓄積し、次は経営者として人を使う側に回る。最後に優秀な娘を大学に入れて社会的身分も手に入れる。現代でも成功した風俗店経営者が、自分の子供は医者や弁護士にして社会的地位を上げていくなんてよく聞く話です。ところが教育を受けた子供の方は親の職業を非難するなんて、現代でもありそうです。こう考えると、100年以上前の英国の状況と現代日本の状況が、ほとんど同じに思えてしまいます。さらに言うと、同じなのはそれだけではありません。若き日のウォレン夫人に「真面目に働け」とアドバイスした牧師のような人も、現代日本に溢れていそうです。実際問題として、貧しい家の生徒が風俗で働いていたなんて場合に、教師として何とアドバイスするのか考えると非常に悩ましい。どうしても牧師さんと同じようなことを言ってしまいそうです。私も弁護士として少年事件に関与してきました。生育環境の悪い子供たちが事件を起こすことはよくあるのです。「闇バイト」や「受け子」で稼ぐような子供たちに、それならどう生きれば幸福になれるとアドバイスすべきか、言葉に詰まってしまいます。

そういえば、評論家の岡田斗司夫氏が、高校中退の16歳の女の子からの「金持ちと結婚して楽に暮らしたい」という相談に対して回答していました。ちなみに同じ質問をChatGPTに聞いてみたら、「今からでも高校大学と卒業して、教養を身に着けて、良い男性がいる職場で働きましょう」みたいな回答が出てきたんです。それはそうかもしれないけど、高校中退の女の子にはハードルの高すぎるアドバイスです。チャッピーと違って、岡田先生の回答はとても実戦的でした。「年上のキモイ金持ちを狙え」というのが結論です。そのために、街を歩いているときにも「キモイ男」を見つけては、その人と暮らしていくというイメージトレーニングをして耐性を付ければ良いという親身なアドバイスまでしてました。そういえば、能力がない人でも会社で出世する方法というのを聞いたことがあります。やり手だけど、みんなから怖がられ、嫌われている上司を心から好きになり、自分から近寄っていくことだそうです。岡田斗司夫のアドバイスと共通点がありそうです。岡田先生に相談した16歳の女の子が、アドバイスを実践して幸せになってくれるのなら、たとえ私がイメージトレーニングに使われていたとしても、我慢しようと思ったのです。劇の話に戻りますと、娘は最後に母からの仕送りを断わり、自らの力で生きていくことを選びます。それは立派な決断ですが、それを可能にしたのは、ウォレン夫人が稼いだ金で教育を受けられたからでしょう。弁護士として、「正論」を声高に叫ぶのは止めようと思うのでした。

 

弁護士より一言

娘から、「パパは何をしているときが一番楽しいの?」と聞かれたので、「芝居が始まる前に、貰った沢山のチラシを見ながら、次はどれを観るか考えているとき」と答えたら、「それじゃあ芝居は観なくても良いじゃん」 娘に生意気なことを言われて、ウォレン夫人の悲しみが少しだけ分かったのでした。                              (2026年6月16日 文責:大山 滋郎)

 

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