弁護士のお客様ファースト
第394号 弁護士のお客様ファースト
今回の参議院選挙で、参政党の「日本人ファースト」が話題になりました。その内容が、「良いことは、まず身近な人から始めていこう」という考えなら、私も共感できるのです。最近ネットで、「世界のことを考える人はたくさんいるが、母親の家事を手伝う人は少ない」みたいな言葉がありました。
これに対しては「家族ファーストはおかしい」「世界の人たちをどう考えているのか」なんて反論はなくて、多くの人が共感を示していたんですね。英語のことわざにも、「charity begins at home」なんてありました。善行はまず家庭から始めろということです。私の好きな儒教の教えにも、「修身斉家治国平天下」とあります。世界の心配をする前に、まずは家庭を整え、自国を治めろという意味です。自国民の不満を解決しないで、いきなり外国の問題に向かうのは問題があるようにも思えるのです。外国人問題のスローガンと言えば、明治維新のときに「尊王攘夷」というのを思い出しました。結局攘夷は実行されず、スローガン倒れでしたよね。しかし維新後、政府を訪問して「攘夷はいつ始めるんでしょうか?」と質問した人がいたそうです。仮に参政党が政権を取ったら、「日本人ファーストはいつ始めるんですか?」なんて質問する人が出てくるかもしれません。こんなことを想像すると、ほのぼのした気持ちになるのです。(おいおい)
いずれにしても、私は日本人ファーストを前提としても、できるだけ外国人と上手くやっていって欲しいなと思うのです。奨学金を無償で与えることで、優秀な外国人が親日家になってくれたら嬉しいものです。
さらに言えば、少なくとも刑事司法の現場では既に日本人の方が圧倒的に優遇されているのも事実なのです。犯罪行為をする外国人に問題ですが、そういう人たちの弁護活動を現実にした経験からは、なかなか複雑な思いもあります。万引きなどする日本人高齢者が増えているといぅったニュースをよく見ます。そういう日本人の場合、警察もかなり手心を加えて、何回繰り返してもなかなか逮捕まで行かないんですね。
一方、外国人の場合には、万引きなどの比較的軽い犯罪の場合でも1回目から逮捕される方が普通です。そして次に来るのが、本国への強制送還です。こんな感じで強制送還されそうな外国人の在留特別許可を取るための活動をしたことがありました。その人は自国に送還されるのを本当に嫌がっていましたが、結果的に収容施設で命を絶ってしまいました。犯罪したのが悪いと思う一方、もう少し外国人にも何とかしてあげたいと思ったのです。ということで弁護士の話です。「日本人ファースト」が妥当かはさておいて、弁護士の場合に「お客様ファースト」が必ずしも十分でなかったことは間違いないと感じています。以前の弁護士は独立に当たり先輩から、どうやって顧客を掴むかのアドバイスなんか受けなかったそうです。そうではなくて「どうやって依頼を断れば良いか」について教えて貰ったというのです。そんな環境では、「お客様ファースト」なんて考える必要ないんです。「人権あって、顧客なし」というのが、以前の弁護士に対する標語でしょう。
以前は、「人権弁護士」と言われている人達が、依頼者から不当に高い報酬を得て、それを「人権活動」に回していたなんて話はよく聞いたのです。弁護士人口が増えて、殿様商売ができなくなった中、お客様ファーストを唱える弁護士が増えてきています。と、他人事みたいに言ってますが、私自身独立開業するにあたり、「お客様ファースト」を主張しました。それ自体は、今でも正しいと思っています。
その一方、違法でなければ全てお客様ファーストでよいのかと言えば、やはり疑問が残ります。相手方も満足した方が結局は顧客の利益になるはずです。日本人ファーストに疑問を持つ人達も同じ問題意識なのかもしれません。お客様を大切にしながらも、社会の役に立つ弁護士になりたいものです。
弁護士より一言
どんなに強く国際協調を主張する人でもオリンピックになると愛国者になるそうです。身内贔屓は人間の本性なのかもしれません。それにしても参政党の神谷さんはじめ、皆さん本当に弁がたつなと感心します。そう妻に話したら、「口の上手い人はなんか信用できないから、やっぱりパパが一番!」と言ってくれました。妻が「夫ファースト!」で嬉しかったのでした。 (2025年8月1日 文責:大山 滋郎)