闇の弁護士
第388号 闇の弁護士
ストーリーがはっきりしている大衆演劇みたいな芝居も好きです。
田中角栄を描いた四部作「闇の将軍」は、全部で6時間30分もかかる長い劇ですが、全部見てしまいました。新潟の豪雪地帯から上京した田中角栄は、東大法学部→高級官僚→政治家コースをたどる「吉田学校」のエリートたちに差別されながらも、地位を築いていく。佐藤栄作の長期政権を陰で支えるんですが、後継者を福田とする佐藤の裏切り。それを受けて、佐藤と袂を分かち、総理大臣になる。この辺の出世ぶりは、芝居を見ていて惚れ惚れします。
しかしその後は、ロッキード事件からの転落が始まるという、けれんみなく田中角栄の栄光と挫折を描いた劇です。選挙の挨拶にくる派閥の人たちには、1千万円入った紙袋を配ります。
先日、石破首相が10万円の商品券を配ったことでいろいろ批判されてますが、スケールが違います。「俺の趣味は田中角栄だ!」なんていう配下ができるくらい、魅力的な人です。そんな田中角栄でも、落ち目になると醜態をさらす。自分自身が佐藤栄作に裏切られたのに、自分も長く仕えてくれた竹下登に政権を譲らない。最後には、竹下に派閥を乗っ取られます。さらに病で倒れた後、妻子が角栄の愛人を追い落とす。愛人を作るなら、せめて経済的に困らないようにあらかじめ考えとけよ、と言いたくなります。
ちなみに日本の弁護士は、「人権」「男女平等」は大好きですが、「愛人」に対してはとても冷たい。愛人は労働法で保護しようという見解は、私一人しかいないんです。「闇の将軍」の芝居の中では、田中角栄が選挙演説する場面が何度も出てきます。それらの演説の中で、角栄が繰り返し主張するのが、「秘密投票」なんです。誰に投票したかについては、秘密が守られるという憲法の規定です。それに関して、角栄は言います。「自分は田中角栄に投票したいけど、ご主人からは『誰々に投票しろ』なんて言われている奥さんいるでしょう。そんなときには、言い争う必要なんてないんです。おとなしく『分かりました』と言って、現実に投票するときには、田中角栄に入れれば良い。これが秘密投票制度ということです!」だそうです。こういうこと、現代でもよくありますね。アメリカの大統領選挙でも、マスコミに質問された人はハリス候補に投票するようなことを言っておきながら、「秘密投票」の下でトランプに入れたのです。秘密投票は、日本国憲法の15条で「すべての選挙における投票の秘密は侵してはならない」と規定されています。さらに「選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問われない」とも憲法に規定されています。「この人に投票する」と嘘をついて、他の人に投票しても一切責任を負わないで良いと、憲法で保証されているのです。「国民主権」って、かなり無責任な制度なんだなと思ってしまうのです。
しかし考えてみますと、外部に発表する「公式見解」と「現実の行動」が違っているのは、選挙のときだけではないようです。常識人の会社員が、SNSで差別まみれの発言をしていたなんて話を聞きます。みんなが褒めている商品と、最終的にはお金を払って購入する商品は違います。今の社会で、普通に賢い人たちは、LGBTについて否定的なことは言いません。非難されたら嫌ですから。それでも、スーパーマンがLGBT を扱うと売り上げは減る。人種差別は許せないと言うが、白人でない「白雪姫」の映画は見に行かない。日本酒で、好きな銘柄を質問したら、100%地酒の名前を上げます。ところが日本酒の売り上げを見たら、菊正宗や黄桜が圧倒的に売れています。
ということで、私も角さんに倣って言っちゃいます。「法律業務を大事務所に依頼しろと言われることもあるでしょう。そういうときには、分かりましたと答えて、現実には横浜パートナーに依頼すれば良いのです!」 こ、これでうまくいくでしょうか。。。
弁護士より一言
「朝日鷹」というお酒を貰いました。私は日本酒のことはよく知らないのですが、「十四代」という有名なお酒を作っている酒蔵のお酒なんだそうです。こういうのを聞くと、とても有難くかんじてしまいます。本当は菊正宗との違いもよくわからないんですが、「好きな日本酒は朝日鷹です」とこれからは言おうと思ったのです。 (2025年5月1日 文責:大山 滋郎)