弁護士の第1感

弁護士の第1感

「第1感」という面白い本があります。「最初の2秒の何となくが正しい」という副題がついています。じっくり考えて出した結論よりも、最初の2秒で感じた印象の方が、正しい場合が多いという話しです。

本の最初で、何億円もするギリシャ彫刻を購入するときの話があります。美術館は、様々な情報を集め、科学判定をして、本物と判断して購入します。しかし、多くの専門家が、問題の彫刻をパッと見て、これはおかしいと感じたということです。何故かは分からないけれども、「おかしい」と直感的に思ったんですね。
結論的には、その彫刻は偽物だったわけです。

本の中では、2秒見ただけで、回答が分かる事例が、沢山あげられています。例えば、医療過誤を理由に訴えられるお医者さんの例です。どの人が訴えられるかを予め判断するには、そのお医者さんの手術の腕だの、医学知識などを検討する必要は全くないそうです。どこを見るかというと、そのお医者さんが患者と話しているところなんですね。短時間見れば十分とのことです。患者の話を聞かなかったり、横柄な態度をとるような医者だと、訴えられる可能性が非常に高くなると、本の中で指摘されていました。

これは、私自身の経験に照らしても、恐らく真実だと思うのです。かつて私自身、医療過誤の相談を受けたことがあります。2人のお医者さんが関与した事件でしたが、話を聞く限り、1人のお医者さんが大きなミスをしたように思えるんです。ところが、依頼者は、ミスをしていない方のお医者さんを訴えたいと言うんですね。ミスをした先生は、とても親身にしてくれていたので、訴えようとは思わないとのことでした!
同じようなことは、弁護士にもあります。依頼者から懲戒請求される弁護士かどうかの判断には、法律知識や訴訟の上手下手など関係ないのでしょう。顧客の話をどれだけ真剣に聞き、顧客にどれだけ親身に接したかがポイントになるのだと思います。

「第1感」で強調されているのは、正しい判断の為には、情報を集めすぎるとかえってよくないということです。沢山の情報に振り回されて、かえっておかしな判断に行きついてしまうんですね。最初の2秒で判断できるというのは、本当に大切なポイントだけを、無意識にせよチェックしているからです。時間をかけて、多くの情報を分析するから間違えるんですね。
ある人がどんな人かを判断するに当たり、その人と長く付き合うとかえって分からなくなります。その人に会いもせずに、その人の部屋を見せてもらうだけの方が、かえって正しく判断できるということですね。

医者の診断をマニュアル化した話がありました。診断における重要なチェックポイントをリストにして、それによって機械的に判断する方法を採った病院の話です。多くの医者が、そんなやり方ではだめだということで、リスト化されていない情報を集めて、判断しようとしたそうです。ところが蓋を開けてみると、リストに載っている情報のみで判断した事案の方が、はるかに正しい結論が出ていたということです。

これは、弁護士にとっても他人事ではありません。法律問題でも、本当に大事なポイントはそれほど多くは無いのです。いかし、プロの弁護士としては、「本件の特殊性」を考え、多くの情報を集めて、更に「正しく」「適切な」判断を目指したくなります。
しかし、それがかえって間違った判断につながっているかもしれないことは、頭の片隅に覚えておく必要があると感じたのでした。
 

弁護士より一言

「第1感」の本には、更に面白い話が沢山載っています。わずか15分ほどの夫婦の会話を専門家が聞けば、その夫婦が15年後にどうなっているのかが、90%以上の確率で判明するんだそうです。会話の中の、ちょっとした相手に対する敵意、軽蔑のようなポイントを拾っていくだけで、驚くほど正確に予見できてしまうということです。
うちの夫婦の会話を聞いてもらったらどうなるかと考えると、怖くなるのでした!
 

(2015年4月17日 第147号)
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