弁護士の七部集

第189号 弁護士の七部集

無人島に本を一冊だけ持っていけるなら、何をもっていくかなんて質問がありますよね。私の場合、間違っ ても法律書なんか持っていきません! たぶん、「芭蕉七部集」を持っていくと思うのです。芭蕉大先生が選んだ、「俳句」と「連歌」を載せた御本です。 俳句の方は、知らない人はいないでしょう。五七五の短い言葉で、心象や物象を切り取って見せます。

「暮淋し 花の後ろの 鬼瓦」なんて感じです。夕暮れどきの寂しさの中、一瞬華やかな「花」を出し、最後 に「鬼瓦」をとり合わせるなんて、本当にうまいなあと感動しちゃいます。今の時代に生きていれば、映像作家などでも、一流になれるんでしょうね。 一方「連歌」については、知らない人の方が多いかもしれません。最初の人が、五七五の句を作りますと、 次の人が、七七と付けていきます。その七七に対して、 また五七五と付ける。これを繰り返していくんです。

 

例えばこんな感じですね。

「春めくや 人さまざまの 伊勢まいり」と、まずは 五七五で始まります。江戸庶民の、一生に一度の楽し みが「伊勢参り」だったそうです。暖かい陽気の中、 それぞれが伊勢参りを楽しんでいるんですね。こういう句が出ると、現代人は「ふん。旅行会社の陰謀だ!」 みたいに言いたくなりますが、それじゃダメなんです。連歌の場合、前の人の句を否定せずに、付けてい きます。「桜ちる中  馬ながく連」といった感じです。 伊勢参りに行くお金持ちでしょうか? 馬を何頭も 引き連れてのお伊勢参りです。その背景に、桜まで散らして、前の句を引き立たせてあげます。

 

次に、この七七に対して、五七五を付けます。

「山かすむ 月一時に 舘立て」 ぽかぽか陽気のお伊勢参りの風景から、月の光の中のお嫁入りの行列みたいに、場面が一気に転換されるわけです。連歌には、色々と難しいルールはありますが、 基本は「前の句を否定しない」「前の句に付けること で、新しい世界を作り出す」「以前の状況に戻ること なく、前に前にと進んでいく」というのが、ポイントです。これって、あらゆる場面で大切だと思うのです。

 

私はサラリーマン時代が長かったんですが、会社での「会議」は評判悪いですよね。「会議」の定義は、「keep minutes, lose hours」だそうです。(か、隠そう隠そ うとしても、英語の実力が。。。)  そんな中で、有意義な会議というのは、主催者が「連歌」方式で進めていたなと思うのです。前の人の発言を否定せずに、それに付ける形で、自分の考える世界を提示させるわけです。さらに、話を後ろ向きにしないで、前に前にと進めていく采配が大切です。

この「連歌」の考えは、弁護士の仕事でもとても重要に思えます。弁護士同士の交渉でも、お互いが相手の主張を否定せずに、それに付ける形で自分の考えを提示すると、とても良い解決ができるのです。 民事裁判の場合など、裁判官によって、和解できるか どうかがまるで違ってくるんですね。下手な裁判官ですと、当事者間で正反対の主張を繰り返すだけになります。ところが、実力のある裁判官が中に入りますと、一方の言い分に対して、否定ではなくて、付けさせるんです。前に前にと進んでいくうちに、お互いそれなりに満足のいく和解案が出てくるのです。

 

弁護士より一言

高校生の娘が自由研究ということで、大人たちに、

「なんで今の仕事に就いたんですか?」と質問した そうです。美術の先生にきいたところ、「芸術家にな りたかったけど、美術好きだけど、才能ないから。。。」 旅行の添乗員さんに聞いたら、「たまたまここが採ってくれたから。でも、旅行会社に入っちゃだめよ!」

おいおい。嘘でもいいから、前向きなことを娘に教えてよ! こういうのを聞くと、芭蕉のように好きなことをして食べていけた人は、本当にすごいなと思うのです。「パパはどうして弁護士になったの?」と聞かれたときに、自信をもって前向きな回答ができるよう、今から準備しておこうと思ったのでした!(2017年1月16日発行 大山滋郎)

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