弁護士のパッケージ
第422号 弁護士のパッケージ
死後あの世へ行った人間の魂は、自分が選んだ新しい人生を持って再びこの世に戻って来るそうです。
選べる人生はパッケージになっていて色々と詰まっているのですが、それぞれに王様、英雄、富豪、病弱みたいな名札が付いています。魂たちはクジ引きで順番を決め、自分で次の人生を選ぶそうです。これはラノベの転生ものではなくて、哲学者のプラトン大先生が書いている話です。プラトン先生は、愚かな選択をした人の例を挙げています。力が無いため「善人」でいるしかなかった人の魂は、今度こそはと「何でも自由にできる権力者」を選びました。
しかし「権力者」の人生のパッケージには、「身内からの裏切り」や「孤独で悲惨な末路」も一緒に入っていることまで気が付きません。これとは逆の例として、トロイ戦争の英雄オデッセウスの話もあります。彼は良い名札のついた人生には目もくれず、「一般庶民」の人生を、自信を持って選んだそうです。ギリシアを代表する知将の目には、そのパッケージの中に「平凡だが穏やかな幸福」があるのが見えていたのでしょう。クジで負けたので選択可能な人生として、貧困、低学歴、病気しか残ってなかったら常識的には絶望的な状況です。しかし松下幸之助は自分の成功の原因として、「貧しかったから頑張って働いた。小学校しか出ていないから一生学び続けた。身体が弱いから他人に仕事を任せることができた。」と話していたそうです。わ、私も生まれる前に病気や貧困の人生を選択していたら、もっと成功していたのにと残念です。(あ、アホか。。。)
選択を終えた魂たちは、忘却の川の水を飲んで自己の選択の記憶を消してからこの世にやって来るわけです。この話を読むと、「自分はあの世でどの人生パッケージを選んで来たのだろう?」と考えてしまいます。「偉人」とか「大富豪」を選ばなかったことは確かです。その一方、今の自分は平凡な庶民を選んだオデッセウスの生まれ変わりかもしれないと思うと、愉快な気持ちになるのです! ということで、強引ですが弁護士業務の話に繋げます。弁護士の仕事でも、何を選ぶのかということはあります。大事務所のパートナーを選ぶ人もいます。これはこれで面白いのでしょうが、そのパッケージの中には「経営者としての苦労」も入ってそうです。
一方「儲からない町弁」を選んだ場合、「お金にはならないが、人の役に立つ仕事」がパッケージの中にあるかもしれません。弁護士事務所に来るお客さんも、何を選ぶのかを決めることはよくあります。裁判や示談交渉などの場面で特に問題になってきます。紛争の渦中にいる人は、往々にして「100%の完全勝利」を望みます。しかし、裁判で徹底的に争って、最終的に勝利した場合でも、「莫大な年月と費用」「泥沼の感情的しこり」「事業の停滞」といった問題が、パッケージの中に隠されていたりします。反対に、一見すると不満が残る「和解」という選択肢の中には「早期の紛争解決」「未来への再出発」「心の平穏」という目に見えない価値が詰まっています。最終的にどのリスクを受け入れ、どの未来を手にするのか本当に難しい。
弁護士としては、「裁判での完全勝利を目指すことによるリスク」について説明はしますが、お客様が「断固として戦う!」と言えば、しつこく和解を勧めることはできません。その結果、裁判では完全勝利となったのは良いのですが、相手が破産手続きをとったので、結果的には賠償金を一銭も取れないなんてケースもあります。
「こんなことになるなんて、もう少し教えてくれたら良かったのに!」と苦情が来たりします。そんなときには思わず「十分に説明したと思うのですが。忘却の川の水を飲んで忘れてしまったのではないですか?」と言いたくなっちゃうのでした。
弁護士より一言
先日、富士山の五合目までバスで行って、麓まで下山することを計画しました。登山と違って下るだけですから、問題ないと思っていましたが、息子に「パパ、無理しないでね。気を付けてね」と、とても心配されたのです。自分は生れるときに「父親思いの息子」を選択したのかなと感動していたら、息子が続けて言ったのです。「ヘリで搬送されないようにしてね! とっても高いんだって」 そ、そこですか。。。 (2026年10月1日 文責:大山 滋郎)





