伯母殺しの弁護

第210号 伯母殺しの弁護

前回のハムレットの続きです。一般的にハムレットは、悲劇の主人公と考えられていますよね。父親を殺して母親と結婚した叔父に、自分の命を懸けて復讐した話しということでしょう。その一方、ハムレットに対しては、批判的な見解が沢山あるのです。そもそも、叔父さんが父親を殺したという根拠がかなり薄いのです。ハムレットは、自分の企画したお芝居(弟が、王である兄を殺すという、ベタな芝居です。)を叔父さんに見せます。それを見て動揺したということだけが、叔父さんが父親を殺した証拠です。そんな嫌味なお芝居を見せられたら、誰だって動揺するだろう! 検察官がこんな証拠しか持っていないんなら、私でも全ての事件で無罪判決をとる自信があるのです。

さらにハムレットは、復讐のためとはいえ、やっていることがかなり酷いんです。仇の叔父さんと間違えて、恋人の父親を殺してしまう。それによって、狂ってしまった恋人も死にます。さらには、叔父さんからハムレットを見張るように頼まれた、かつての親友二人を殺してしまうんですね。親友を殺しておきながら、「強い者たちの争いに、雑魚がしゃしゃり出てきたのだから、当然のことだ。」なんて言います。ひ、酷すぎると思うのは、私だけではないはずです。そんなこともあって、殺された二人の親友を主人公とした「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」なんて劇まで出来ています。翻訳劇ですが、私は20年前に見て、少し前にまた見に行きました。何度も上演されています。それほど、「ハムレットおかしいよ!」という意見があるということでしょうね。

話は変わりますが、「伯母殺し」という推理小説があります。今から80年以上前の作品です。伯母さんと暮らしている主人公が、自分を不当に抑圧する伯母さんに耐えかねて、「伯母殺し」を計画実行する話です。主人公の立場から見た伯母さんの酷さが、これでもかと書かれているんですね。殺人はもちろん悪いことだが、これならやむを得ないこともあるなと思ってしまいます。殺人は未遂に終わりますが、仮にこの事件が発覚して、私が主人公の弁護人になったら、色々と言ってやろうと思っちゃいました。

ところが、この推理小説の最後で、伯母さんの立場から、この事件が語られるんです。伯母さん側からみた話は、主人公の話とは全く違います。甘やかされて育った、身勝手な主人公が、お金欲しさに犯罪に手を染めて、その過程で多くの人を巻き込んで不幸にしていたということが明らかになっていくんですね。この推理小説を初めて読んだときは、そのどんでん返しに、「えー!」と感動したことを覚えています。

考えてみますと、弁護士の仕事には、こういうことが本当に沢山あるんです。刑事事件で、被告人の話を聞いたときには、「警察・検察・国家権力許せず!」なんて思ってしまうことがあります。被告人が、不当に虐げられた悲劇の主人公のように思えて、「自分が何とかしてあげないと!」と思ってしまいます。ところが、検察側の証拠を見てみると、事件の様相は一変します。被告人の身勝手さ、気の毒な被害者の様相が明らかになってくるのです。依頼者の話しを信じ、共感して、親身に対応することは、弁護士として絶対に必要なことです。それなくしては、依頼者の信頼を得ることはできません。その一方、依頼者の言うことを盲信せず、裏から見る冷静さも忘れない。それができないと、弁護士として半人前でしょう。まだまだ道は遠いですが、精進していきたいと思ったのでした。

弁護士より一言

小学校6年生の息子が、友達と一緒に、親のランキングを付けたそうです。「ママが、優しいお母さんNO1になったよ!」「カッコいいお父さんは、00君のお父さんだった!」 大人気ないとは思いましたが、「なんでパパじゃないんだよ?」と息子に聞いたんです。息子は困ったように少し考えてから言いました。「00君のお父さんは、ハゲてないからカッコいいんだよ。」な、なんだそれは! 「パパだって、白髪だけどハゲてはいないんだ!」と心の中で憤慨したのでした。。。

(2017年12月1日発行 大山滋郎)

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