合板弁護士の一枚板
第228号 合板弁護士の一枚板
少し前に自宅を大修繕しました。そのとき、木材について勉強したんです。本物の一枚板は、合板にはない風格があることから、愛用する人も多いんですが、反りや歪みなどが生じやすいという欠点があります。一方、様々な木を接着剤で合成した合板は、丈夫で狂いもなく、さらに値段も安いというメリットがあります。
その一方、どうしても安っぽい感じになりますね。そんなわけで、こういう作り物の合板を批判する人達が、相当数いることも事実です。こういう合成して作るのって、肉の場合も有名です。普通は食べないような内臓部分の「クズ肉」を集めて、防腐剤や着色剤などで繋ぎ合わせると、立派なステーキの肉が出来ちゃうんです。私なんか、それなりに美味しく食べてしまいますね。しかし、「これは本当の肉ではない」と否定する人も一杯いるようです。
ただ、現代社会は、純粋な「一枚板」ではなくて、色々なものを混ぜて作る「合板」化に向かっているように思うのです。それにはやはり、合板の方が安くて丈夫で狂いが少ないといった、合理的な理由があるからでしょう。ワインなんか、様々なワインを混ぜ合わせて作るのが常識です。それによって安いワインでも、とても美味しく飲めるんです。実際、混ぜ合わせたワインを、高級ビンテージ ワインとして販売しても、ワインの専門家が誰も気が付かなかったなんてこともありました。アイドルだって、昭和の時代は松田聖子や山口百恵みたいな「一枚板」でしたけど、平成に入ると、モーニング娘。やAKB48みたいな「合板」アイドルになっているのです。(ほんまかいな。。。)
ということで、弁護士の話です。日本の場合、弁護士一人で業務をしている「一人事務所」が非常に多いのです。弁護士の人数も増え、業務の合理化効率化が進む中、一人事務所はだんだん少なくなってきているようですが、それでもまだ6割以上が一人事務所なんですね。そんな中、日本の弁護士では「一人で何でもできて一人前」みたいな風潮は強いように思います。昔ながらの「一枚板」弁護士が、弁護士を何百人も有する大手事務所を批判するなんてよくあります。そんな事務所に入れば、部分的な仕事しかできないということです。「合板」の一部じゃだめだろう、ということでしょう。弁護士について、それはそれでもっともな意見だと思います。確かに、無垢材の「一枚板」のような、非常に優れた仕事をしている弁護士がいることも事実です。その一方、経年劣化によって、反りや歪みが酷い、「一枚板」が相当数いることも間違いないんです。お客様からの預り金を横領したなどと言う弁護士も、一人で長くやっていた人が多いと聞きます。私が直接経験した、酷い弁護士もそうです。強制わいせつ事件などの弁護では、起訴する前に示談して、起訴を防ぐのが一番大事なんです。ひとたび起訴されてしまうと、後でいくら示談しても、前科が付いてしまいます。ところが、「起訴されたら、被害者情報も入手できるから、それから示談する。あわてないで。」なんて言ってた弁護士が、本当にいました。「今までお願いしていた弁護士が信頼できない。」ということで、うちの事務所で事件を引き継いだ事件があります。そこで、これまでの弁護士にその旨うちから連絡したんですね。そうしたら、その弁護士から、うちの事務所に内容証明郵便が届きました。「お客をとってけしからん。損害賠償や懲戒請求をするので覚悟しろ!」という内容でした。さすがに呆れかえったのです。いずれも、一人で長くやっている「一枚板」弁護士の話です。うちは現在6人の弁護士による「合板」法律事務所ということで、反りや歪みが出ないように協議しながらやっています。「一枚板」でも活躍できるだけの実力を付けた弁護士が集まって、互いに助け合い「合板」として仕事を行う。そんな事務所になりたいものです。
弁護士より一言
ある方から、家の改築祝いということで、ビンテージ ワインを頂きました。1993年のシャトー・マルゴーという、とても凄い「一枚板」ワインなんです。普段は、一本2、3千円の「合板」ワインで満足している私たち夫婦は、いつ開けて飲めばよいのか、緊張してしまいます。この夏に、結婚23年目を迎える記念に、思い切って飲んでみようと思うのです。
(2018年9月1日発行 大山滋郎)