弁護士育成の大誤解
第233号 弁護士育成の大誤解
「子育ての大誤解」という、とても面白い本があります。「重要なのは親じゃない」という副題が、本の内容を全て表しています。「子育て」における、親の果たす役割なんか、本当に小さいものだということを書いた本なんです。それなら、子育てにおいて何が重要かというと、兄弟や友達といった、同年代の人達の影響なんだそうです。そう言われてみると確かに、私自身子供の頃は、親の言うことはうるさく感じる一方、同年代の先輩たちの言うことには敬意を払ってきたように覚えています。
著者によると、人間というのは大昔から相当長い間、親にではなく同年代の先輩たちに育てられてきそうです。昔は、親は子供を産むだけで手いっぱいで、とてもじゃないけど「育てる」余裕なんかないというんですね。何十万年も続いた狩猟時代には、確かに子供を教育するだけの余裕を持った親などいなかったはずですね。人間というのは、そういう風に育つように長い間に作られてきたので、子供というのは、友達や先輩の言うことなら聞くけど、親の言うことなど聞かないように出来ているそうです。「なるほど!」と、思わず唸ってしまうような説明です。
弁護士の場合も、若手をどのように育てるかは、問題になります。もともと弁護士は非常に恵まれています。司法試験に受かった後、国の費用で1年間の研修を受けさせて貰えるんです。裁判官や検察官になる人達と、一緒に行う研修です。この研修は、授業料がタダというだけで凄いんですが、さらに生活費まで出して貰えます。ここで、弁護士としての実務についての基礎を教えて貰うんですね。研修が終わって正式に弁護士になりますと、通常はどこかの法律事務所に入って、勤務しながら仕事その他を覚えていくことになります。このときに、どんな事務所に入るかによって、新人がどんな弁護士になるかが決まるなんて、よく言われてるんです。ボス弁護士が横柄な先生だと、新人も同じように横柄になるという話はよく聞きます。研修では、お客様対応などは教えてくれませんから、初めて体験する事務所での対応が、当たり前だと思って真似してしまうんだそうです。仕事に対する取り組みについても、同じことが言えそうです。弁護士によっては、自分が納得するまで、こだわりにこだわる人が相当数います。ある意味良いことなんですが、お客様を置いてきぼりにして、自己満足を追求しているような気もします。その一方、お客様の方ばかり見て仕事をしていると、段々とプロのとしての技能が衰えていくかもしれません。その辺の兼ね合いも、新人弁護士は最初に入って事務所でボス弁護士のもと、学んでいくんだそうです。
というわけで、私もこれまで新人弁護士の教育において、責任重大だと考えていたんです。しかし、「子育ての大誤解」を読んで、気が付いたのです! 新人弁護士の教育に、ボスの影響なんてほとんどないと。
うちの事務所は、現在6名の弁護士がおりますが、新人は何かあると、私じゃなくて先輩に質問するんですね。聞かれた先輩たちも、私よりよほど親身に回答してあげているようです。うちで新人が良く育っていたとしたら、私の功績ではなく、先輩弁護士の功績だなと、素直に思います。もっとも、「子育ての大誤解」を読んでいて、子育てに友達や先輩が重要なら、「孟母三遷の教え」じゃないけど、良い友達や先輩のいるところで子供が育つようにするのは親の功績でしょう。良い先輩のいる事務所を作った私は、やっぱり凄い弁護士だと、自画自賛することにしたのです。
弁護士より一言
現在中学1年生の息子は、妻の言うことはちっとも聞かないのに、お姉ちゃん達には素直にしたがいます。先日、妻が息子に、「うちの子たちは大器晩成型だから将来は大物になるかもよ!」なんて言ったんですね。すると息子が、「そんなこと言うなら、銀行強盗して大物になるかもよ!」なんてふざけたことを言います。妻はあきれてたんですが、その場にいた高校生の娘が冷静にコメントしました。
「そんな度胸ないから大丈夫よ!」
なるほど、親より兄弟姉妹の方が、子供のことを良く分かっているなと、感心したのでした。(おいおい。。。)
(2018年11月16日 大山滋郎)