弁護士の漱石枕流

第264号 弁護士の漱石枕流

「そうせき ちんりゅう」と読むそうです。明治の文豪、夏目漱石のペンネームの由来です。「石で口をすすいで 流れを枕にする」という意味になります。これって、普通に考えておかしいですよね。もともとは、俗世間を離れて自然の中で暮らすことを表す表現で、「石を枕にして 流れで口をすすぐ」というのがあったんです。これなら意味が分かります。ところがある人が、間違えて反対に言ってしまったんですね。「あ、いけない。間違えたよ。」と言えれば簡単なんですが、その人は負けず嫌いです。そこで、「石で口をすすぐ」というのは、石でもって歯磨きをすることだと強弁したというエピソードがありました。

 

こんなところからペンネームをとった漱石先生ですから、当然の事ながら口が達者です。漱石の小説に出て来る人達は、本当にうまいことを言うものだと、私なんか感心するばかりです。例えば、大学を出てから仕事もしないで、ニート生活をしている息子がいます。父親が、「そんなことではだめだ。誠意をもって働けば、結果はあとからついてくる。」みたいなお説教をするわけです。このお父さんの気持ちよく分かります。私も自分の子供がニートになったら、きっと一言云いたくなるはずです!

 

ところが、父親のこういうお説教に対するニート息子の切り返しが凄い。「お父さんの話は、金の延べ棒みたいですね。」思わず笑ってしまいます。価値のある言葉であることは間違いないから「金」なんです。でも、経験の裏打ちも思想的背景もない、世間に通用されているだけの言い古された考えのところが「延べ棒」なんでしょう。実際、世の中には「金の延べ棒」みたいなお説教が大好きな人が沢山います。以前、事業に失敗した人の破産事件で、裁判官が本人に、「これからは借金などしないで下さい。」なんて「金の延べ棒」みたいなお説教をしていました。事業の借金とサラ金の借金の違いさえ分からない裁判官って、本当に居るんだと、呆れたものです。私も依頼者に、「金の延べ棒」みたいなアドバイスをしていないか、反省したいと思います。

 

必要なくなった物や制度をいつまでも後生大事にしていることを批判するのに、「赤道に住む土人が、いずれ氷河期が来るかもしれないと、ストーブを捨てずに持っているようなものだ。」なんてセリフもありました。これも、思わず笑ってしまいます。うちの事務所でも、昔の本や資料など、なかなか捨てられません。そのうち必要になるかも、なんて考えてしまうんです。現代の国家制度は、とても非効率で時間と費用ばかり掛かる仕組みになっています。これは、ただ一点、「権力の乱用を防ぐ」という目的の為なんですね。ネットなどが発達し、政権批判が幾らでもできる現代で、非効率な国家制度が必要なのかは考えてしまうところです。

 

弁護士がお客様に提供するサービスも、万が一の事態への対応まで考えると、時間的にも費用的にも相当膨らみます。万が一の「氷河期」を心配してそこまでするのが本当にお客様のためになるのかと、検討し直すことも必要でしょう。漱石の小説に出て来るヒロインに、こんな言葉もありました。「男の人って本当に議論が好き。空の盃で献杯献杯と、よくもやりあえるものだわ。」 これは本当に耳が痛い。漱石大先生自身、議論が大好きですから、自戒の思いを込めて書いたんでしょう。弁護士会のグループメールがあるんですが、その中で色々と難しい議論を戦わせるのが大好きな弁護士先生は相当数います。よくもまあ「空の盃で献杯献杯」と飽きずにできるなと、感心してしまうのです。

 

弁護士より一言

年明けから、卓球教室に通い始めました。少しでも運動しようということで、子供の頃にやっていた卓球をすることにしたんですね。先生は私の子供の年代の人達です。私が少し息を切らすと、「大丈夫ですか? 休みますか?」と気を使ってくれます。なんだか、「ここで倒れでもされたら、大変なことだ。」と心配されているみたいです。夏目漱石先生なら、一言云いたくなるかもしれませんが、素直に「大丈夫です。頑張ります!」と言うようにしているのでした。

                                                                                                                (2020年3月2日 大山 滋郎)

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