弁護士のアドバイス
第339号 弁護士のアドバイス
少し前にネットで、「デートのときの食事代は、男性が払うべきか」なんて論争がありました。世の中暇な人が多いらしくて、こんなどうでもよいことについて、様々な意見が出されていたのです。江戸小咄に、「世の中暇な奴がいるねえ。一日中本当にゴロゴロしてるだけ。間違いないよ、俺は1日中見てたから」なんていうのがありました。
そんなわけで、「暇人」な私が観察した「暇人」たちの意見を紹介しちゃいます。まず、「女性は服やお化粧代がかかるのだから、食事代くらい男性が出して欲しい」なんていうのがありました。私なんか、これだけで納得しちゃいますけど、そうでない人も多い。「男性だって車代その他お金がかかっている」「自分の夫が、他の女性にもそんなに気前よくご馳走しても良いのか」とか、大変うるさい。さらには、「男性が当然にご馳走するというのは、男女平等の考えに反している」みたいな意見もあったのです。
まあ、理屈はそうかもしれないけど、何もそこまで言わなくても良いじゃんと思ってしまいます。こうなってくると、「平等」にするにはどうするのかという問題にまで行きます。意見の中には、「お金のある人がご馳走すれば良い」とか、さらには「収入に応じて、食事代を負担すれば良い」なんていうのも出てきたのです。食事に行くときには、源泉徴収票や確定申告書が必要になりそうです。め、面倒くさい。
でも、そもそも何で収入によって負担を決めるのが公平になるのか今一つ分かりません。私なら、収入ではなくて、食事のときに話す量に応じて、費用を負担するというのを提案しちゃいます。レストランで、近くの席から会話が聞こえてくるときがありますよね。男性が気持ちよく話す場面が多い。こんな感じです。「出世には、スキルと人間性が必要なんだよ。倉橋(誰それ?)も潰れたじゃん。でも、俺は潰れないんだよ。それが何故かという点が重要なんだ!」みたいな感じで気持ちよく話していた。それを私はメモしてました。(こ、こういうことするから私は、「性格悪い」と言われるんです。)
しかし、これだけ気持ちよく話していたなら、当然食事代は支払ったんだと信じています。自分が言いたいことだけ言いながら、相手にお金を払わせるなんて「あんたはNHKか!」と、非難したくなります。もっともこれは、男女の食事でだけではなく、上司と部下の食事でも言えそうです。わ、私は若手との食事中、気持ちよく「アドバイス」する代わりに、ちゃんと食事代は出しています。
ただ、根本的なところまで考えてみますと、「食事代は男性が出すべき」みたいな一般論は、それ自体正しいとも間違っているとも言い難いところがありますよね。私の大好きな「論語」に、「良いことを聞いたらすぐ実行すべき」という一般論についての、孔子の教えがありました。ある人からこの言葉について聞かれた孔子は、「もちろんそうしなさい」と答えた。
ところが、別の人から同じ質問をされたときには「家族がいるのだから、実行する前によく検討しなさい」と答えたという話です。なかなか行動しない人に対しては励まし、猪突猛進型の人には慎重にするようにアドバイスしたわけです。本来アドバイスというのは、こういう風に相手に応じて行うべきものだと思うのです。女性にモテたいのにモテないという男性から、「デートの食事代は男性が払うべきか」と聞かれたら、「当然払ってください」と、全くモテなかった私でもアドバイスしちゃうのです。
考えてみますと、弁護士として求められる法的アドバイスに関しても、こういうことはあります。「非常に素行の悪い従業員は解雇すべきですよね」なんていう質問です。こういうときには、どうしても質問者がどんな人なのかをまず見てしまいます。そして、「当然です。法的リスクは残りますが、他の従業員のためにも解雇すべきです」か「問題があるにしても、簡単に解雇してはいけません」と、違った回答をすることになるのです。
弁護士より一言
「男女でレストランに来ている場合、男の方が自慢話などよく話す」と妻に伝えたところ、必ずしもそんなことはないと言われました。「少なくとも熟年夫婦の場合は、奥さんが話して、旦那さんは憮然として食べてることが多いし、さらにうちの場合は隣の人の話は聞いててタチが悪い!」と叱られました。わ、私は妻の話を、一番よく聞いているんです。ほ、本当です。 (2023年4月16日 大山滋郎)