弁護士の法則

第352号 弁護士の法則

私は「法則」が好きなんです。

以前のニュースレターで、70年くらい前にパーキンソンさんという人が提唱した「パーキンソンの法則」を紹介しました。複数の「法則」があるんですが、そのうちの一つに、「人は自分が判断可能な事柄について熱く論じる」なんていうのがありました。最近、大阪万博の費用が数千億円かかるみたいな記事を読みました。

しかし、この問題については、それほど盛り上がらないで、何となく議論が終わってしまった感があります。

ところが、ある市長が海外の友好都市に行くのに、ビジネスクラスを使ったという話題については、非常に白熱した議論が行われています。数千億のことなど現実味がないですが、数十万円のことなら、一言言いたくなるのでしょう。弁護士業務で考えますと、かなり高額な和解金について決まった後に、振込手数料をどちらが負担するかで白熱したことがありました。法則の話に戻りますと、パーキンソン以外にも、役に立つものは沢山あります。「主観客観反比例の法則」なんてとても良い法則です。主観的に、自分は良い人間だと思っている人ほど、客観的には問題のある人なんですね。労働事件で、会社の方から「全く使い物にならない」と言われているような従業員ほど、自己評価が高いというのは、よくある話です。証人の信用性についての研究で、「自分は絶対に正しく記憶している」と主張する人ほど、証言の内容はいい加減だというものがあったのです。

これに似た法則として「強さと正しさ反比例の法則」というのもあります。紛争が起こったときに、強い方が無茶なことをしているというのは、一般常識かもしれません。ウクライナとロシアの戦争も、ロシアの国力が5倍強いそうなので、ウクライナの方が5倍ほど正しいように思えます。法律の世界でも、この「法則」を前提に、制度が作られています。一般的に弱い立場の労働者の方が「正しい」のが通常なので、法律は労働者側に有利に作られている訳です。

もっとも、このような法律があることにより、法律を知っている労働者は、逆に会社よりも強い立場になってしまうので、話がややこしくなります。実際問題として、労働者側が、かなり無茶をする事例もあるので、弁護士としては悩ましいとことです。再び「法則」に戻りますと、「ギリシャ神話の法則」というのがあるそうです。これは、「神々の不倫は喜劇、人間の不倫は悲劇」という法則です。ギリシャ神話では、ゼウスはじめ神々は、どんなに不道徳なことをしても、人間は本気で非難などしません。これに対して、人間の不道徳な行いの場合は、「絶対に許せないことだ!」ということで、血の雨が降る悲劇になります。「人は隣人に嫉妬する」なんて言葉もありますが、神々は特別だから、人の倫理基準は当てはまらないと思われていたのでしょう。ジャニーズの性加害問題ですが、以前から問題提起はされていました。それどころか、裁判で性被害が認定されても、ことさら問題視されませんでした。国民が許さなかったなら、どんなにジャニーズの力が強くても、マスコミはここぞと攻撃したはずです。多くの国民にとって芸能界は「神々の世界」だったから、許されていたとしか思えないのです。もっとも、現代社会において一度「神々」の座から転落すると、非常に強く攻撃されることになります。フランス研修中の女性議員達が、エッフェル塔の前で写真を撮ったということで大問題になりました。この位問題ないだろうと考えての行為だったはずです。実際、少し前までは、この程度のことは全く問題にならなかったはずです。国会議員はもう「神々」ではなくなったということだと思います。

考えてみると、これって弁護士に関しても言えることです。以前は弁護士も、「神々」と思われていたはずです。顧客に偉そうな態度をとったり、納期を守らかったりしても、許されていたのです。もう神々ではないのだと、心してお客様に接するようにします。

 

弁護士より一言

山形の月山に一人で登りました。「一人で行かせて大丈夫?」と子供が妻に聞いていました。以前長期で一人旅をする時も90近い私の母から一緒に行ってやってと妻に連絡がありました。し、失礼な! 「みんな私をなんだと思ってるんだ!」と大いに憤慨しました。あんまり憤慨したので、「主観客観反比例の法則」のことなど、すっかり忘れていたのでした。ううう。。。                                                                                                             (2023年11月1日  大山滋郎)

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