弁護士の確率(1)

第353号 弁護士の確率(1)

様々な徴候から「自分は高い確率で助からないはずだ」と判断している重病患者でも、心の底では「ひょっとしたら」と期待しているそうです。だから、医師から「事実」として余命宣告されると大ショックを受けるんですね。人間にとっては、どんなに「高確率」であったとしても、それは「事実」とは違うようです。

少し前に回転寿司でのイタズラ行為の動画がネットにあげられて、大問題となりました。醤油入れに直接口を付けて飲んだり、回っている寿司をなめた指でつついたりしたそうです。ひどい話です。でも、考えてみますと、こういうのは以前から指摘されていました。子供が手に取ったお寿司を、親がまたレーンに戻したなんて、いかにもありそうです。確率論的に考えれば、非常に高確率で、そういう不衛生なことが起こったに違いないと、みんな理解しているはずです。それでも「見ぬもの清し」ということで、大して気にしない。

しかし、そういう不衛生な行為を「事実」として見せられると大きな衝撃を受けます。20年以上前に住んでいたアメリカで、選挙制度について議論されていました。選挙の場合、日本でも米国でも、現実に投票された数で判断します。でもこれは、必ずしも「正しく」ないそうです。

例えば、貧しい地域の人達は、選挙に行かない確率が高いということです。それに対して、比較的裕福な若者は、実家の住所と現在の住所の二個所で選挙できてしまう可能性があります。こういう不公平をそのままにしてくのは妥当でないという問題意識です。そこで、統計的・確率論的に選挙結果を調整して、より正しい民意を反映した方が良いのではないかと議論されていました。確かに、問題意識は分かります。しかし、当時の米国最高裁によって、このような確率論に基づく選挙結果の調整は否定されました。科学的な確率による「正しさ」と、一般人の感じる「正しさ」は違う中、裁判所は後者を取ったのでしょう。そもそも何が正しい「確率による調整」か、基準自体はっきりしません。そんな「調整」をした選挙結果で落選した人は、とても納得いきませんから、いつまでも争いが続くことになりそうです。そう考えると、確率論による調整はやはり難しそうです。

今回のコロナで、罹患者と濃厚に接触した人も、隔離されました。これ自体は、政府の方針であり、特に何とも思いません。しかし、確率論的に見れば、毎日満員電車に乗っていた人は、罹患者と濃厚接触していた可能性が非常に高かった。計算すれば、おそらく、満員電車での通勤者は、99%の確率で濃厚接触者になりそうです。しかし、マスコミも世論も、そんな簡単な算数は分かっていても、特に問題提起はしなかった。

一方、身内にコロナ患者が「事実」として出た場合は、濃厚接触者として隔離しないと許されませんでした。やはり、単なる「高確率」と「事実」とは、別のものだと考えられていたようです。そして、弁護士の世界というか、法律の世界でも、やはり「高確率」と「事実」は違うのだと考える方が一般です。刑事事件でも、状況証拠を積み重ねた場合、かなりの高確率で真犯人だと思えるような場合があります。しかし、決定的な証拠がない中で、いくら確率的には間違いなさそうでも、状況証拠だけで「有罪」と認定するのは、どうしてもためらうところがあります。裁判でもこういう事案で、有罪とすべきか争われてきました。和歌山毒入りカレー事件なんて有名です。直接的な証拠がない中で、被告人を有罪にしていいのかという問題です。同じ毒物が被告人の自宅から発見されたとか、当日不審な行動があったとか、普通に考えればかなり怪しい事実がありました。それこそ確率的に考えると犯人である可能性は高そうです。それでも、犯行動機が不明確で、直接的な証拠も存在しないという状況で、多くの弁護士が無罪を主張しているのです。

 

弁護士より一言

コロナの頃にPCR検査をするときは緊張しました。「陽性反応が出たら、最近会った人達みんなを、濃厚接触者ということで、活動制限させることになるのか」と考えたら、ドキドキしましたが、これまでは常に陰性だったので、心底ホッとしたのです。でも、無自覚のまま感染していた確率は高そうにも思えます。                       (2023年11月16日 大山滋郎)

 

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