弁護側の証人

第382号 弁護側の証人

「検察側の証人」は、ミステリーの女王、アガサ・クリスティーの作品です。

もともとは短編小説でしたが、舞台でも大ヒットしました。裁判を主題にした推理劇です。ある若者が、遺産を取得しようとして、愛人だった金持ちの中年女性を殺したとして、起訴されます。殺人について、その若者が犯人だとする状況証拠は沢山あるのですが、決め手となる直接証拠はないという状況です。なんか、先日無罪判決が出た、紀州のドンファンを若い妻が殺したという裁判と似ています。そんな中、被告人の妻という女性が、検察側の証人として、事件当日被告人が血染めの服で帰ってきたという証言をします。この証言が認められると、被告人の有罪は決まってしまいます。そんな中、弁護人のところに、その女性は別に男がいて、裁判では偽証をしているのだという密告が来ます。その密告をもとに弁護側が偽証を暴き、結果として被告人は無罪となるという話です。

ただ、クリスティーの劇ですから、これでは話は終わりません。どんでん返しが待っています。実は、偽証をしたという女性と、それを密告した人は、同一人物なんです。ことさら偽証をして、それが偽証だと自ら暴くことで、被告人を無罪にしたわけです。冷静に考えれば、偽証があったにしろ、他の状況証拠によって有罪無罪を決めればいいように思えますが、なかなかそうはいきません。

つい最近の日本の再審事件でも、捜査機関の証拠偽造が疑われて、無罪判決が出ました。これなんて理屈から言えば、「怪しいけれど有罪とするには足りない事件」(ドンファン事件なんか、皆こういう認識ですね)のはずが、何故か「真っ白なのに冤罪被害にあった人の事件」になってしまいました。クリスティーの作品は、この辺の人間心理も考慮に入れたところが面白い。「検察側の証人」とは逆に、弁護側で証人を出すこともよくあります。戯曲のようなドラマチックな証人ではなくて、罪を認めた上での情状証人が一番普通なんです。被告人の親族に、「今後しっかりと監督して、こんな事件は二度と起こさせません」なんて言ってもらうことになります。嫌がる親を何とか説得して、法廷で証言してもらいますが、「もう息子も大きいんですから、私が監督なんてできません」なんていう人がたまに出てきます。や、止めてください。

これに限らず弁護側の証人では、本当に思いもよらないことを言い出す人がいます。当然、裁判の前に打ち合わせはしますし、「こういうことは言わないで下さい」みたいなアドバイスはするんですが。。。 

たとえば、ギャンブル中毒の犯人が、1億を超える金額を横領した事件の弁護をしたことがあります。横領したお金を、競馬などに使ってしまい、もう残っていないなんて状況です。こういう事件の場合、警察はなかなか逮捕しないで、事件を調査します。ひとたび逮捕してしまうと、22日以内に起訴しないといけないものですから、起訴できるほど準備してから逮捕するんですね。つい最近起こった、銀行の貸金庫から数億円盗んだ銀行員の事件でも、なかなか逮捕されませんでした。その裁判で、お父さんに情状証人になって貰ったのです。そのとき検察官の反対尋問で、「逮捕されるまでの間、被告人はどんな様子でしたか?」との質問に対し、「元気がなくて可哀そうでした。元気になってもらいたくて、一緒に競馬に行ったりしてました」なんて回答したんです。ギャンブル狂いで横領した息子を監督するという話の中で、なんでそんなこと言うのか私もびっくりしましたが、質問した検察官も一瞬言葉に詰まっていました。クリスティーの劇に戻りますと、最後にさらにどんでん返しがあります。無罪となった被告人には若い愛人がいて、偽証をした妻は捨てられます。怒った妻が被告人をナイフで刺殺し、弁護士は引き続き妻の為に弁護をすることになります。私がその弁護士なら、誰を「弁護側の証人」にするのか考えてしまいます。

 

弁護士より一言

妻から「石破首相ってパパみたい」と言われました。だらしないマスクの付け方、おにぎりをこぼしながら頬張る食べ方、さらに海外訪問で歓迎の踊りをいかにも興味がなさそうな顔をして突っ立てたとこなんか、そっくりだそうです。隣で必死に愛想を振りまいてた奥様を見たら、自分のことのように感じ、涙を禁じ得なかったそうです。そ、そこまで言わなくても。。。                                                                                                         (2025年2月3日  文責:大山 滋郎)

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