コーデリア弁護士の正直
第191号 コーデリア弁護士の正直
コーデリアというのは、シェイクスピアの「リア王」の娘です。三人姉妹の末娘ですね。父親のリア王は、それまで治めていた自分の国を、3人の娘たちに譲ろうと考えます。そこで、各娘たちに、父である自分を、いかに愛しているのかを話させます。その内容に応じて、何を与えるのかを決めようというわけです。上の娘たちが、「お父様以外は一切愛せません。」といったおべんちゃらを長々と言い、それを喜んだリア王は、二人に沢山の領土を上げます。
ところが、リア王が一番かわいがっていた、末娘のコーデリアは、姉たちのように嘘はつけないということで、正直な気持ちを話すのです。「お父様のことは心から愛していますが、いずれ結婚したら、夫のことも同じように愛します。」 これを聞いて激怒したリア王は、コーデリアに何一つやらずに、放り出してしまいます。その後リア王は、口のうまかった姉二人の下で暮らしますが、すでに権力も財産も娘に渡しています。娘二人にひどい仕打ちを受けて、住んでいた城を追い出され、荒野をさすらいます。それを知ったコーデリアが、愛する父親を助けに行ったが。。という悲劇ですね。長々書いて済みません。
この話について通常は、娘たちの本当の気持ちを見抜けなかった、愚かなリア王の悲劇ということで理解されています。リア王は、正直な気持ちを話したコーデリアの、真心を見ることができなかったんですね。これはまあ、その通りだと思います。
その一方、なんだってコーデリアは、「正直」に話したんだろう、という疑問も禁じ得ないのです。自分をかわいがってくれている父親の気を悪くすることを、正直に話す必要なんてないじゃないですか。
「言葉というのは、現在の真実を述べるものではない。将来を良くするためのものである。」なんてことを、かつて読んだことがあります。コーデリアは、父親に対する自分の言葉で、将来がこうなるか考えていたのだろうか、という疑問です。
どんなにうでが良くても、患者の生きる力を奪うのは「ヤブ医者」だと思います。余命1年だと思っていても、「正直」にそんなこと言われたら、がっかりして半年で死んじゃいそうです。嘘でもいいから、「全然大したことありません!」と言ってもらえたら、元気が出て1年半は生きるかもしれないじゃないですか。「絶対に正直なことしか言えない。」みたいな人は、弁護士にもいるんです。例えば、示談交渉の場面です。
自分の依頼者絶対に相手は受けないだろうという要求をしてくることはよくあります。そういう場合、私なんかは、「嘘」にならない範囲で、手加減して相手に伝えます。「正直」に伝えたら、さらに争いが大きくなってしまうからです。ところが、「正直」に全てを相手方に伝える弁護士も、相当数いるのです。弁護士が入らないほうが、紛争が早期に解決したなんて、本当にありうるのです。「正直」に言わないということは、「嘘」をつけということとは違います。コーデリアの場合では、「嘘」をつかずに、ただ泣けばよかったのです。「お父様が大好きです!」と言って。男性用の、小のトイレを綺麗に使ってもらうには、どんな表示をすれば良いかという、問題があります。正解は、「綺麗に使っていただき有難うございます!」なんです。これで、嘘が本当になるそうです。言葉は、こういう風に使うべきです。一方、最悪なのは、「一歩前に。貴男のはそんなに大きくない!」
真実なだけに、私なら意地でも一歩下がります!
弁護士より一言
中学生の娘は、学校で古典の暗記をしています。「奥の細道」とか「平家物語」とか、いろいろありますよね。娘が頑張って覚えていたので、よせばいいのに、全部言って見せました。「パパ、すごい!」という、娘の声を期待していたのです。
ところが現実には、「パパ、ヤバッ!そんなに沢山暗記していた、パパの青春って何なの?」コ、コーデリアだって、リア王にこんな酷いことは言わなかったぞと、大いに憤慨したのでした。(2017年2月16日発行 第191号)