弁護士のネタ認定
第276号 弁護士のネタ認定
2チャンネルのような匿名掲示板で、多くの人が自分の経験を披露しています。本当にあったことを書く人も沢山いますが、作り話を面白おかしく書いて、読んでる人を「釣って」楽しんでいる人も多数いるのです。「こんなくだらないの読んでちゃダメだ」と反省しつつも、うまい文章を書く人がいますから、ついつい読んでしまいます。
例えば、「友達が金目当ての女と結婚しそうだから止めたい」といった、掲示板での相談なんて、本当にうまいんです。「大学、院でぱっとさえない者同士仲良くなった。俺はキモメンで友はダサメンといったところか。」 なんて自己紹介で始まります。その友人が、若くて美人なお嫁さんを貰うと聞いて、その女性は「金目当て」だと決めつけます。友人に結婚を辞めるようにしつこく「忠告」したり、二人をストーカーしたりと暴れまわるなか、掲示板で、悪い女に騙される友人を救うにはどうすれば良いのかを相談するわけです。
「こんな狂った人はさすがにいないだろう?」と思う一方、「いや、しかし。。。」なんて思わせる、とても上手い文章で感心します。掲示板で相談に乗っている人たちも、相談者の話が作りものだと判断すると「これはネタだな」と、ネタ認定します。相談の話そのものを楽しむと共に、本当かどうかの判定も楽しむんですね。中には、何でもかんでも「これはネタだ!」と認定する人も出てくるんです。私が読んでても、「いったいどういう理由で、この話をネタ認定したのだろう?」と、疑問に思うことも多数あります。
その一方、法律家の立場からすれば、明らかな作り話にしか思えないのに、ほとんど誰も「ネタ認定」しない場合もあるのです。例えば、お金がない人から、不法行為の損害賠償金を回収する話です。回収のために、高利貸を紹介して、そこから無理やり数千万円を借金させて、賠償金にあてさせたなんて話が結構あります。「担保もない人に、そんな大金貸す奴いるかよ!」と思うんですが、意外と「ネタ認定」は入りません。金融業者は「悪」だから、高利の大金を、簡単に回収できると思っているんでしょうか?
裁判の話なんて、かなりメチャクチャなものが多いのですが、不思議と誰も「ネタ認定」はしないのです。例えば、「放火されたので、裁判をして3か月で多額の損害賠償を取った。その後犯人は刑事事件で起訴されて、刑務所に行った」なんて話が出てきます。裁判なんて、弁護士に相談して、訴訟を起こすまでで、3か月程度経つことはよくあります。裁判が始まっても、判決まで1年程度はかかるのです。
そもそも、放火をしたら、まず逮捕されて刑事裁判が始まります。民事裁判の後に刑事裁判だなんてことは、考え難いのです。こんなことは、弁護士なら当然のことです。
逆に、一般の人たちは、これが「ネタ」だと思わないほど、法律実務を知らないのでしょう。もっとも「一般人は、裁判がこれくらいのスピードで進むと信頼しているのだな」とも考えられます。法曹関係者として、反省すべきことにも思えます。
ネタ認定の話に戻りますと、匿名掲示板に登場する弁護士は、とても親身な人が多いのです。例えば、配偶者の不倫を疑う依頼人が、初めて会う弁護士に相談します。すると、その弁護士は本当に親身な人で、不倫の現場を押さえるために同行してくれたりするんです。私の感覚ですと、「そんな弁護士居るかよ!」と、思わず突っ込みを入れたくなります。ところがこういう話に対しても、ほとんど「ネタ認定」は入らないんですね。
「世間一般の人たちは、弁護士のことを、そんなに親切だと思ってくれているのだな」と思います。難しい問題はありますが、ネタがネタではなくなるように努力します。
弁護士より一言
今年は家庭菜園で、キュウリ、トウモロコシ、ナスの苗を2本ずつ植えました。自分では頑張って育てたつもりだったのですが、結果としては、キュウリが3本取れただけで、残りは全滅でした。この話をすると多くの方に、「またまた。さすがにそれはネタでしょう!」なんて言われます。でも、ネタじゃなくて、本当のことなんです。ううう。。。
(2020年9月1日 大山 滋郎)