弁護士の鵜舟
第330号 弁護士の鵜舟
先日、木曽川で鵜舟に乗ってきました。念のため説明しますと、鵜(う)という鳥を使って行う鮎漁のことです。鵜は、魚を丸のみにします。「鵜呑み」にするなんて言葉の語源にもなっています。この鵜の首にひもを付け、鮎を獲ってこさせた後、その鮎を吐き出させるという、伝統的漁法です。「動物愛護協会が何も言わないんだろうか?」と心配になりましたが、鵜飼を行っている「鵜匠」の人からお話を聞いて、色々と勉強になったのです。
まず、鵜匠の人は、市役所に勤めている公務員なんだそうです。鵜舟自体、鮎を獲ることが目的ではなくて、私のような観光客に見せることを目的とした、観光事業の一環です。だから、鵜が獲ってきた鮎は、傷も多く付いてますし、衛生上の理由もあり、人には出しません。鵜たちの食事として使うことになるそうです。そ、そんなこと全く知りませんでした。。。
さらに、一緒に鵜飼を見ていた妻が、凄い発見?をしたのです。沢山の鵜の中に、何度も魚を獲ってきては、鵜匠に吐き出されている鵜と、ただ一緒になって泳いでいるだけで、全く鮎を獲らない鵜もいるという事実です! この点について、鵜匠の人に聞いてみると、鵜の一生について、説明してくれました。まず、生まれたばかりの鵜を、鮎を獲ってくるまで、訓練する必要があります。これに3年間かかるそうです。見習い期間みたいなものですね。
弁護士の場合は、司法試験に合格してから1年間、研修のための期間があります。この期間内は、公務員類似の身分で給料をもらいながら、講義を受けるほか、裁判所、検察庁、弁護士事務所で実務の勉強をします。これが見習い期間といえますが、手取足取で教えて貰い、本当に恵まれています。一般企業の見習いは、もっとずっと厳しいですよね。
更に言いますと、海外から「研修生」みたいな形で人を連れてきて、特に教育などしないまま、安い賃金で働かせるような会社さえあります。これは法的にも厳しく取り締まられているのですが、「仕事を教えてあげたうえ、何で文句を言われるんだ!」なんて思っている会社もありそうです。確かにそういう風に思える場合もあるだけに、難しいところです。
「鵜」に話を戻しますと、3年の見習い期間を過ぎると、その後5年くらいはしっかりと働いて、鮎を獲ってきてくれるそうです。ところが、5年を過ぎるころから、段々とさぼることを覚えて来るそうです。なんとなく一緒に泳いではいるけれど、鮎は獲らない! 現代社会でも取り上げられている、「働かない中高年」の問題が、鵜の世界にあったのです。鵜飼は1000年以上の歴史のある漁法です。昔は、働かなくなった鵜は、そのまま野に放って「解雇」していたそうです。
しかし現代は、動物愛護の立場からも「解雇」はできない。働かなくなってから死ぬまで10年以上、世話をしているとのことでした。でもこれって、現代日本の労働法でも同じです。「働かない」という理由では、会社は従業員を解雇できないのです。日本の法律も裁判所も、「労働者」には優しいですから、「その職場で働けないなら、働ける場所を見つけてあげるのが会社の義務だ」なんて言ってきます。大企業ならともかく、余力も少なく、働ける場所も限られている中小企業だと、こんなこと言われても困ってしまうのです。
そう考えると、鵜舟の場合は非常に上手くいっているなと気が付きました。現代の鵜舟は、鮎を獲ることではなく、観光資源化が目的です。鮎を獲らなくても、みんなと一緒に泳いでいるだけでも、観光の役に立っています。いずれ、AIやロボットが発達し、人間が働かなくても生産・流通等可能になった人間の世界でも、同じようになるかもと、夢想しているのです。
弁護士より一言
鵜の話、考えれば考えるほど、「ドキッ」としました。うちの事務所自体、若手弁護士が頑張っているお陰でもっています。私なんか客観的に見れば、「働かない中高年」なんです。ううう。 更に言えば私は「若手弁護士たちを『鵜』」のように働かせている!」と非難されそうで心配になります。歳をとっても、鮎を獲ってくる鵜もいると、皆に見せたいと思うのです。 (2022年12月1日 大山滋郎)