弁護士も名を正さん

第215号 弁護士も名を正さん

「必ずや名を正さん」というのは、論語に出てくる孔子の言葉です。「政治を任されたら、先生はまず何をしますか?」という質問に対する、孔子の回答です。

子供の頃、この孔子の答えを読んで、なんか納得いかなかったのを覚えています。実質的な制度を変えないで、「名前」だけ正しくしても、あまり意味ないのではと思ったんですね。しかし、最近になってようやく、「名を正す」ことの重要性が分かってきたのです!

「国民総背番号制」ってありましたよね。個人に番号を割り振って、管理しようというものです。これに対して、本当に多くの人たちが反対しましたね。国民に背番号を付けて国家権力による統制をするなど、国民の人権侵害だなんていって、多くの弁護士も大反対していたはずです。ところが、「国民総背番号制」が「マイナンバー」だなんて訳の分からない名前になると、大した反対もなしに、あれよあれよという間に制度化されてしまいました。特に国民の人権が弾圧されたという話も聞きません。こうなりますと、反対していた人たちというのは、ただ「名前」に反応していただけであり、「名を正し」たら問題解決したとしか思えないのです。政治の世界では、本当に「名前」が大切だなと感じます。医療費の負担問題でも、「後期高齢者」なんて「名前」を付けたために、凄くもめました。「どういう属性の人たちに、どれだけの自己負担を求めるか?」という問題なんですが、名前に拒絶反応を示して、ほとんど議論もできなくなったと記憶しています。たとえば、「甲種医療費負担」みたいな、訳の分からない名称にしておけば、ここまで反発されなかったのではと思うのです。この他にも「名を正」したほうが良いなと思うことは沢山あります。弁護士の場合、国の責任を追及するのが好きなんですね。悪の国家権力から賠償金をとってやったという感じです。でも、「国」のお金というのは「税金」のことです。要は、国民の税金を、どのように分配するかという問題なんですね。「国」という名前を「税金」という名前に正したなら、国家賠償に対する国民の意識も違ってくるように思うのです。ということで、法律の話です。法律の世界でも、名前を正した方が良いことが沢山あると思うのです。以前から一番気になっていたので、民事訴訟での「原告」「被告」という言葉ですね。「被告」というのは、原告に訴えられた人というだけの意味なんですが、かなりの人が「犯罪者のように扱われた!」ということで、大変怒るのです。「被告」だなんて言われた以上、絶対に和解はできないなんて意地になる人もいるんですね。間違った名前によって、もめなくてもいいところでもめているような気がします。そこで「名を正」して、訴えた方を「甲方」、訴えられた方を「乙方」みたいに呼ぶようにすれば、大いに紛争解決に役立つと思うのです! さらに、余計なお世話かもしれませんが、「検察官」という名前は、どうにも今一つのように感じていました。犯罪者を適切に処罰して、国民の安全を守るのが仕事のわけですから、「護民官」みたいに名前を正せば、もっと人気の出る職業になりそうです。以前も書きましたが、「弁護士」という名前は、実態を無視した、かなり変な名前だと思います。弁護士の仕事の9割以上は、個人間の紛争で、一方当事者のために働くものです。「名を正」して、「紛争代理人」とか「民事代理人」とすれば、少なくとも今のように、「弁護士は人権擁護の偉い職業だから、特別扱いしてもらって当然!」と勘違いする「弁護士」も、少しは減少していくのではと期待しているのです。

弁護士より一言

久しぶりに風邪をひいて、一週間も寝込んでしまいました。モウロウとした意識の中で、かつて娘が風邪をひいて、寝込んでいたときを思い出したのです。普段は食いしん坊の娘が、ぐったりして苦しそうでした。妻が枕もとで、「何か食べたいものある?何でも言ってね。」と伝えました。すると娘は、とぎれとぎれに言ったんです。「か、からあげ。ポテト、アイス。。。」 まだまだ、余裕じゃん!と安心したのを覚えています。今回娘の「からあげ」の声がよみがえってきて、私の風邪も快方に向かったのでした。

(2018年2月16日発行 大山滋郎)

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