AIなんか怖くない

第219号 AIなんか怖くない

「バージニア・ウルフなんか怖くない」は、私が生まれたころに作られた、アメリカのお芝居です。映画にもなってますから、見た人も多いと思います。田舎町の大学教授夫妻が主人公です。夫婦仲は冷え切っていて、子供もいないこともあり人生にも退屈している二人ですが、2つだけ共通の「趣味」があるんです。1つは、現実にはいない子供が、現在寄宿舎に入っているというウソの話を、二人で共有することです。二人はこのウソを、自分たち自身、半分信じて生活しているんですね。もう1つは、大学に赴任してくる若い教員から色々な話を聞きだして、それをもとに彼らをいたぶるという、とても趣味の悪い遊びです。そんな中、新婚の教員夫婦がやってきたので、早速話を聞き出します。若い奥さんは思い込みの激しい人で、いまの夫と付き合っているときに、想像妊娠してしまう。夫の方は、それが原因で、イヤイヤ結婚したなんていう「事実」を聞き出しては、若い夫婦をいたぶります。

そうこうしているうちに教授夫妻は、自分たちも喧嘩を始めます。妻をギャフンと言わせようとして、夫である教授は、寄宿舎に入っている想像上の息子が死んだという連絡が来たという話を作り上げます。それを受けて、かつて想像妊娠までした、思い込みの激しい教員の若奥さんが、「自分もその連絡を聞いた。」と言い出す。第三者に認められることで、「息子の死」さらには「息子の不存在」は、逃れられない事実として、教授夫妻に襲い掛かってきます。普段は「バージニア・ウルフなんか怖くない」(狼なんか怖くないの駄洒落です。)と口ずさんでいる教授夫人が、「事実」を前に耐え切れず、「怖いわ、怖いわ。。。」と怯える中、お芝居は終わります。「芝居とはこういう風に作るものなのか!」と、感心したのを覚えています。

ここのところ、AI(人工知能)の話題をよく聞きます。多くの仕事が、AIに取られてしまうなんて話ですね。言語の翻訳も、AIが完璧に行える日は、そんなに遠くないそうです。会社の経理業務なども、AIに任せた方がよほど正確な情報が、より素早く出てきますね。弁護士の仕事も例外ではないのです。アメリカで契約書の審査について、一流の弁護士数名がAIと勝負したら、AIの方が早くて正確だったそうです。こうなってくると、とてもじゃないですが、「AIなんか怖くない」なんて強がりは言えなのです。「怖いわ、怖いわ。。。」と、私も怯えてしまうのです。

その一方、受け手の人間の側は本当に、AIが提供する「事実」を欲しがっているのか、疑問に感じています。お芝居の中の、若い教員夫妻は、想像妊娠の結果、嫌々結婚したんだなどという「事実」を突き付けられたくなかったはずです。教授夫妻も自分たちが、現実には子供などいないという「事実」など、知りたくなかったでしょう。しかし、AIに分析させたら、こういう「事実」は容赦なく暴かれそうです。会社の経理業務をAIに任せないのは、それにより、どの部門が会社の足を引っぱっているのかという「事実」が明確になり、それが社内の調和を乱すからだと聞いたことがあります。弁護士の場合でも、残酷な「事実」を突きつけるだけではなく、依頼者の気持ちに寄り添い、今後どうしていくのか、一緒に未来を創っていくことが、大切だと感じています。AIが、単に客観的な「事実」だけを提供する間は、もうしばらく「AIなんか怖くない!」と、強がっていようと思うのです。

 

弁護士より一言

留学している高校生の娘から、定期的にメールが来ます。日本語は使わないと決めたそうで、英語のメールなんです。おかしな文法ですが、頑張っているんだからそんな「事実」は指摘しないでおこう、と思っていたのです。電話も時々あり、妻と楽しそうに話しています。電話でも、果敢に英語で話してます。ところが私も電話に加わり、話し始めると娘に英語で厳しい「事実」を言われました。「パパノ発音ハ、アマリ良クナイノデ、理解ガ難シイデス。アイム ソーリー、ジロー!」 し、失礼な!

次回は、AIに発音してもらおうと思ったのでした。(2018年4月16日発行 大山滋郎)

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