プラトン弁護士の実務

第266号 プラトン弁護士の実務

プラトンは哲学者の代名詞みたいな人です。2500年も前の人ですが、師であるソクラテスを主人公にした哲学書を沢山残しています。ソクラテスは本を1冊も残してませんから、「ソクラテスがプラトンを作り、プラトンがソクラテスを作った。」なんて言われているわけです。いま読んでも、とても面白い。本の中で、プラトン描くソクラテスが、自信たっぷりな人の見解をコテンパンに論破していきます。「哲学も良いけど、いい年した大人になれば、しっかり働け。」なんて正論?も、プラトン先生にかかると、ボロクソにやられちゃうんです。プラトンの哲学書の中では、「国家」なんか有名です。

「正義」とは何かについて考察している本ですが、ある人が、「正義とは強者の利益だ!」と持論を展開します。「お前みたいな世間知らずのバカに、本当の真理を教えてやる。」みたいな感じで話し出すんです。プラトン先生、こういう「切られ役」の人を憎々しく描写するのが得意です。現代でも、「正義が勝つ」のか「勝ったのが正義」なのか、争いがありますよね。でも、プラトン先生にかかれば、この程度の意見は、たちどころに「論破」されてしまいます。

 

これを受けて、今度はプラトンのお弟子さんが問題提起します。「正義が強者の利益だというのが間違いなのは分かりました。しかし、仮に姿を完全に消すことのできる指輪があった場合、それを手に入れた人はあらゆる不正を行っても罰せられず、国家権力さえも手に入れられます。そうだとすれば、そもそも正義とは何なのでしょうか?」という質問です。

 

これに対する回答を、プラトン描くソクラテスが検討していくのが、「国家」の内容となります。そこで、散々検討した後で、プラトンが考える、正義の国家とは何かといいますと、「真理を学んだ哲人王による統治」なんだそうです。「真理」は絶対のものですから、哲人王に成る人は、「真理」に対する疑いを持つことも許されないのです。なんか、凄く不気味な国家になっちゃいそうで心配です。実務的観点から、こんな国家が本当に運営できるのかという疑問もあるのです。

プラトン先生は哲学者としては凄い人ですが、実務家としては、全く活躍していません。それどころか、現実の政治の話になると、当時の基準でも酷い人権侵害国家を持ち上げたり、独裁者がでるとホイホイ付いて行こうとしたりします。「せ、先生の英知はどこに行ったんですか?」と言いたくなるような惨状ですね。でも、エライ学者先生なんかに、こういう人結構いるんですね。ドイツの哲学者で、「ヒットラー万歳」と心から言ってた人もいます。日本の法学者で、スターリン、毛沢東、金日成が政敵を粛清する度に、涙を流して喜んでた先生もいました。こんな凄い学者達でなくても、良い大学を出て優秀なはずなのに、実務の世界に出たとたん、ピントがずれていて役に立たない人って本当に居ます。ということで弁護士の話です。

 

私は、多くの弁護士の思想は、とてもプラトン的だと思っています。哲人王の「真理」にあたるのが、弁護士にとっての「憲法」「人権」なんですね。絶対の真理だから、一言一句変えることは許されません。その真理を学んだ「哲人」みたいな法律家が、世の中を導いていくのだと本気で信じている弁護士はかなりいます。それはそれで問題ですが、弁護士の場合、プラトンみたいに、弁も立つし、法律論もしっかりしている一方で、実務能力に欠けていて、プラトン描くソクラテスみたいに、相手方やお客様を「論破」して、怒らせてしまう人が相当数いることも大問題なのです。

 

弁護士より一言

哲学入門みたいなのを読んでいた中学生の息子が、「プラトンって知っている?」なんて聞いてきます。「そのくらい知っているよ。」と答えますと、「じゃあ、カントって誰だ?」なんて追及してくるんです。私が答えると、息子も意地になって次から次へ聞いてきます。。「じゃあ、ポスト構造主義って知ってる?」 そ、そんな難しいこと知ってるわけないやろ! プラトンの描く「切られ役」の人みたいに、「しっかり勉強しなさい!」と言ってしまったのでした。。。

                                                                                                                         (2020年4月1日 大山滋郎)

 

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