弁護士の三部作

第277号 弁護士の三部作

三部作ってありますよね。漱石の「三四郎」「それから」「門」みたいな感じです。それぞれの本も面白いんですが、三部かけて人間関係が発展していくところが好きなんです。

 

例えば、アンドレ・ジッドの「女の学校」三部作なんて良いです。主人公の女性が、夫に対して厳しい視線を向ける話です。この夫は、確かに見栄っ張りです。使用している整理箱について、「凄い工夫だ。よく思いついたね」と褒められると、「買ったものです」と正直に答えられない。「私が発見しました」なんて言う。奥さんが愛好している無名の画家の作品を、それまでは無視していたくせに、画家が有名になると、昔からの美術愛好家のようにふるまう。こういう夫を、奥さんの視点で、厳しく断罪するのが第一部です。もっとも、弁護士として離婚訴訟等やっていると、「この程度の旦那さん、まだいい方なんじゃないの?」と思ってしまいます。

 

そして第二部は、この夫の視点で書かれた小説です。妻が自分を軽蔑していることに気が付いており、本当の自分ではなく、理想の自分を探して失望しているのだなんて批判をするんです。離婚訴訟などでも、一方の言い分だけを聞くと、「相手は鬼畜か!」なんて思いますが、相手の方にもそれなりの言い分があるのが通常です。

 

そして第三部では、二人の間にできた娘の視点で、話しが続きます。原告の主張、被告の反論の後に、第三者たる裁判官の判断が来るみたいで面白い。「女の学校」は、志賀直哉大先生の推薦図書だそうですが、いろいろと考えさせられます。オペラの世界ですと、「フィガロ三部作」というのがあります。

 

一作目が、「セビリアの理髪師」です。意に染まぬ結婚をさせられそうなヒロインを、若き好男子の伯爵が、従者フィガロの助けを借りて助け出すというお話です。このヒロインも、ただ助けられるだけのお姫様じゃなくて、気が強い人です。「私は従順で優しく愛情深い人間だけど、敵に対しては毒蛇になって懲らしめてやる」なんてオペラの中で歌います。無事に結婚したヒロインと伯爵の、その後が書かれたのが第二部の「フィガロの結婚」です。いうまでもなく、モーツアルトが曲を付けています。ここでの伯爵は、若い正義感だった第一部とは違い、かつての盟友フィガロの結婚相手に言い寄る、女好きの困った人になっています。それでいて、伯爵夫人になったヒロインに、小姓の男の子が思いを寄せるのに嫉妬したりします。

 

最後には、伯爵が反省し、伯爵夫人が許して、オペラは大団円を迎えるんですが、現実の世界ではそううまくいかないですね。はっきり言いまして、女癖の悪い人は、まず直りませんね。奥さんの方も、「自分の敵は毒蛇となってやっつける」という人ですから、悲劇は目に見えているのです。ということで、第三部の「罪ある母」に続くのです。女癖の悪い夫に愛想をつかした妻が、自分に思いを寄せる小姓と関係を持ち、その子供を産むという話です。こうなってきますと、弁護士案件です! 

 

現代なら、DNA鑑定、嫡出否認の訴え、離婚訴訟、慰謝料請求訴訟とフルコースが来そうです。第一部を見て、若き伯爵とヒロインの恋愛を応援していた人には、非常に残念な結果です。逆に、第三部しか見ていない人にとっては、第一部の二人を想像するのは難しいように思えます。弁護士が「主人公」と知り合うのは、基本的に「第三部」に入ってからです。「第三部では残念なこの人も、第一部では凄い人だったんだろうな」と思うのです。

 

考えてみますと、弁護士の人生でも三部作はあります。「人々の役に立ちたい!」と弁護士を目指す第一部、弁護士の特権を当たり前と思うようになる第二部、道を踏み外してしまう第三部。こんな「弁護士三部作」本当によくあるんです。第一部で持っていた、熱い思いを忘れないようにしたいものです。

 

弁護士より一言

オペラに行くたびに寝てしまうんです。「高いお金出して、爆睡するなんてムダよね」という、妻の苦情を聞いた娘が言いました。「パパは、良質な眠りを買ってるんだからムダじゃないと思うよ。」
弁護してくれたのは嬉しいけど、し、失礼な。。。                                                       (2020年9月16日 大山滋郎)

 

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