弁護士の丸十

第278号 弁護士の丸十

天ぷら屋さんには「丸十あります」なんて紙が張ってありますよね。若いころ、意味が分からなかったので調べてみました。薩摩藩の紋所が、丸の中に十の形なので、サツマイモを意味する「業界用語?」だと判明しました。

この他にも天ぷら屋さんでは、「公魚入荷しました」なんていうのもあります。これも分からなかった。公魚というのはワカサギなんだそうです。ワカサギは足が速いので、将軍家に献上するときに、魚を運ぶ人は「公魚」を運んでいるということで優先的に扱われたということに由来するそうです。しかし、素直に「ワカサギ」と書いた方が良いと思うのです。

 

大体こういった特別な言葉は、お店の人が、顧客に分からないように使う隠語のはずです。三越では、トイレは「遠方」食事は「喜左衛門」と呼ぶそうですが、そんな感じです。落語にある、「鞍馬から牛若丸が参りました。その名を九郎判官と」「義経にしておけ」みたいなノリです。(なんのこっちゃ。。。) 天ぷら屋さんだけではなく、法律業界にも、一般人には分からない言葉はあります。専門用語というのは、そもそも分かりにくいものですから、正しい意味を覚えるだけでも大変です。法律を勉強していない一般の人は、「弁護人」と「弁護士」の違いも、「公判」と「弁論」、「証拠能力」と「証拠力」、「勾留」と「拘留」もごっちゃにして使います。「前回は、執行猶予付きの実刑になりました」「逮捕されたけど、すぐに保釈されました」なんて発言もよく聞きます。

 

ただ、専門用語については、知らないから正しく使えないというのは、やむを得ないように思います。しかし、特に使う必要もないのに、法律業界では、分かりにくい言葉を使うこともよくあります。これは問題だと思うのです。例えば、民事訴訟の場合、お互いの主張を口頭で戦わせるというのが法律の定めになっています。

 

しかし実務では、文書を出して、お互いにやり取りするんですね。法律の建前では、口頭でやり取りしないといけないわけですから、形式だけですが法廷で、「書面の通り陳述します」と述べる「儀式」が必要になるんです。でも一般の人にはそんなこと分かりませんよね。

 

以前、弁護士を付けない裁判で、裁判官に「それでは陳述をお願いします」と言われた人が、作成してきた書面を読み上げていました。裁判官は、慌てて止めてましたが、これは裁判所が不親切と言われてもしようがないです。「提出した文書の内容で主張するということで良いですね」みたいに聞けばよいだけですから。刑事裁判でも、一般人があまり使わない言葉が使われます。被害者が犯人を許すことを宥恕(ゆうじょ)というんです。判決にも、「被害者の宥恕があるので、減刑した」みたいに書かれます。そこで、犯人の弁護人が被害者と締結する示談書に、「宥恕する」なんて文言を入れることはよくあります。

 

しかしたまに、この言葉の意味が分からないまま、示談をしてしまう被害者が出てきます。後になってから「許すなんてとんでもない!」「だまされた」なんてことになるのです。最近は、明確に「許します」と書く弁護士が増えてきています。このほかにも、裁判所でだけ使うおかしな言葉ってかなりあります。「裁判官の判断に任せます」というときには「しかるべく」と言います。日時の都合がつかないときには、「さしつかえです」と言うことになってます。これなんか、業界内部の言葉使いですから、「開かれた裁判所で使うのはどうかな?」と思ってしまうのです。

 

もっとも、お寿司屋さんの「ガリ」「あがり」「お愛想」みたいに、もともとは業界内の隠語だったのが、普通の人にも広まっていく場合もあります。裁判を自分でする人が増えれば、そのうち一般の人も、「さしつかえです」なんて、普通に使うようになるのかもしれないと思ったのでした。

 

弁護士より一言

子供は、へんな言葉を使うのが好きですね。私もマネして、「了解」の意味で、習いたての「り!」を使ったんです。すると娘から、「パパ、古すぎ。いまだにそんな言葉使ったら、ピエンこえてパオンだよ!」 な、なんだそれは。分からな過ぎて「草」、と思ったのでした。。。                                                                        (2020年10月1日 大山滋郎)

 

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